第16話 シーカー
西へと向かっていた。北と南に多くの峰を結んだ稜線があった。連なる山々の、北の最も高い峰が“竜王の角”で、南の方の最も高い峰が“響岳”である。
カールの説明によると、北にある竜王の角からの尾根と、南の響岳の尾根は互い違いにすれ違い、交わらない。両方ともが緩やかに東へカーブし、平野で消える。
ヘルナデス山脈の尾根はこの間、途切れてしまう。そこは“ウインドウ”と呼ばれ、幅1.5キロほどの低地が広がり、王都センターパレスや竜王の門がそこにあった。
言い換えれば、竜王の門の位置は竜王の角と響岳の
“ウインドウ”と呼ばれる一帯はドラゴンの領域ではないし、人の領域でもない。要するに空白地帯なのだ。それとは逆に、高峰と高峰を結ぶ線よりも長城が西に入り込んでいる地域がある。
そこでは人の領域がドラゴンのそれと重なっている。理屈から言えばドラゴンが人の領域を自由に行き来出来るということになる。
そこに人は住めない。だが、現実はそこに人が住んでいた。“シーカー”と呼ばれる武装集団だ。
彼らは、ローラムの竜王と人が和解した時、徹底抗戦を主張した者たちである。どういう生活をしているのか謎に包まれている。数千年もドラゴンと戦い続け、生き延びたのもさることながら、歴史の表舞台に立とうとはしなかった。
数千年もの隔絶は大きい。文化もしきたりも全く違うのだろう。彼らも自覚している。ドラゴンと手を結んだエンドガーデンの人々にとって、自分たちの存在はいい迷惑だと。
余りに姿を現さないために“シーカー”は伝説の中にいるだけで、実在しないと主張する者もいる。だが、ほとんどの人々はその存在を信じている。
山中や森で迷った人を助けたなんて話はざらだ。それどころか、武装した“シーカー”の集団がエンドガーデンの内地に姿を現したという事例もある。
彼らの本分、ドラゴン狩りを行うためだ。結界魔法がかけられているヘルナデス山脈の西側からドラゴンの侵入はまず有り得ない。しかし、過去エンドガーデンにドラゴンが飛来した。
考えられるのは、東の大海を渡ってやって来た。ザザム大陸か、ガリオン大陸かのドラゴンである。
そういうことが十年に一度か二度あるらしい。背に腹は代えられない王族は“シーカー”にドラゴンの排除を依頼する。他国の話ではあるが、二年前にもそういうことがあったようだ。王立騎士学校で聞いたからデマではない。
事実、各国の王族と“シーカー”とは強い結び付きがある。民間人は夢にも思っていないだろう。王族と“シーカー”の成り立ちから言って本来なら対立するのが道理なのだ。
王族は何代にもわたってローラムの竜王のもとに出向いて契約を結び続けなければならない。これは明らかに、ローラムの竜王への奉仕である。
服属儀礼と言えないこともない。真の王に謁見する。謁見を許された者のみ人の王となれた。
だが、これはあくまでも慣例である。しかも、約束を交わしたのは人とドラゴン。別の種族間でだ。
結界内に入ったらいつ何時、何が起こるか分からない。カールの話によれば、ドラゴンの中にも跳ねっかえりもいるらしい。悪気はなく、いたずら心でちょっかいをかけてくるやつもいるという。
ドラゴンの姿をしているが、ドラゴンと言えないやつらもいるらしい。“はぐれドラゴン”と呼ばれるものだ。
ブレス攻撃は出来るが魔法は使えない。どれだけ食べても腹は満たされず、本能に任せ殺戮を繰り返す。やつらに竜王の言葉は届かない。屍に魂が入っているだけの無能であるとカールは言う。
もちろん、ローラムの竜王の結界を越えることは出来ない。そもそも魔法耐性があるドラゴンが越えられないのだ。魔法が使えない“はぐれドラゴン”は言うに及ばずである。
それで“シーカー”なのだ。旅の途中、王族を守る者が必要だった。ドラゴンと対峙できる者はどこをどう見渡しても他にいない。
こうして王族と“シーカー”の関係はローラムの竜王と契約が始まった時以来ずっと続けられていた。
“シーカー”に対して、王族からの報酬は自由であった。王は彼らの土地を侵略せず、彼らがどこで何をどうしようが咎めない。ただし、王族との関係は秘密とする。
魔法を得るため“シーカー”に接触しようとする
持ちつ持たれつなのだ。王族は王権を維持するため、その事実をひた隠す。“シーカー”は伝説上であって実在しないと声高に宣伝する者が出るのもこのためであった。
当然、竜王の門で行われた旅立ちの儀式には、“シーカー”は現れない。彼らとは結界を越えてすぐの“ルートイン”という野営地で落ち合う手はずになっている。
カールによれば、彼らは独自のルートを持っているそうだ。誰も住みたがらないドラゴンの領域に入り込んだ長城一帯を根城としている。そしてそもそもが、どの王国にも属していないし、ローラムの竜王について言えば契約外なのだ。長城を越えることなんて彼らにとって何でもないことだった。
俺とカールは並んで馬上に揺られている。俺たちの行く手は多くの木漏れ日に照らされていた。
言うまでもなく、ウインドウと呼ばれる地帯は人の手が入っていない。整備されてないわりに森は明るかった。標高の関係なのだろうか。うっそうと茂って光が差し込まない森とは違ってウインドウの旅は快適だった。
カールもリラックスしているようだ。ドラゴンや“シーカー”のことを雄弁に語っていた先程までが嘘のようである。居眠りしているかのように馬に揺られていた。
豪胆だというべきか、あるいは運命を受け入れているというべきか。間違いなく、カールは自分の置かれた状況を把握している。
この旅が終われば廃嫡。だが、事実はカールの想像の上を行っている。
==================================
あとがき
すいません。タイトル変更しました。
これまで通り、お付き合いいただきますよう、よろしくお願い致します。
また、星レビュ、応援コメント、フォローも重ねてお願い申し上げます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます