第14話 ディール
「殿下、もうその時は迫っているのです。我々はその時のために準備を整えておかなければなりません。王とか議会とか言っている場合ではないのです」
王とか議会とかぁ? こいつ、かっこいいことぬかしやがって。一国の王子を、マフィアを使って酒やクスリや女に溺れさせたやつが言う言葉か。
俺は完全に見下されている。腹が立つが、それにしても預言だ。驚きを通り越してにわかには信じ難い。夢物語だと言っていい。
大聖堂の、どの壁画に描かれているドラゴンも凶悪な姿をしている。魔法も使えるという。それにあの“ハンプティダンプティ”の軍団と対等に戦っていたんだ。生身の人間に、しかも、うら若き乙女に、そのドラゴンが従うとはとても思えない。
「信じられないのですね、殿下。ですが、教会こそが、真の学び舎なのです」
大司教としては、王立騎士学院でこのことを教えていないのが憤慨なのだろう。絵画の乙女に釘付けな俺をおいて、歩を進めた。中央礼拝所を上がったところで立ち止まった。
「殿下、どうしたのです? 今日は特別な用事で来られたのでしょう。さぁ、王室礼拝堂の方へ」
そうだった。俺は侍女、シルヴィア・ロザンの件でここに来た。まぁ、公式には生き返ったことへの礼ではあったが。
大司教は中央礼拝所を進み、さらに奥の王室礼拝所に入って行く。俺も続いた。
先ずは、生き返った礼を言った。大司教は謙遜し、天の思し召しだと言った。全てが型通りである。
「それで、私に懺悔なさりたいこととは?」
アーロン王からの使いも来たのだろうが、俺はあえて侍従フィル・ロギンズを使いにやった。旅立つにあたって懺悔したいと伝えさせたのだ。
仮にも聖職者を名乗っているのなら王族の懺悔だと聞いて知らないふりも出来んだろ。となれば、おおぎょうに人を集めたりもせず、必ず内々での話となる。
「私は明日、ローラムの竜王に会いに、ヘルナデス山脈を越えて西へ旅立ちます。危険な旅になるでしょう。私には神の導きが必要なのです」
「分かります」
大司教は軽く会釈をした。
「では、お始め下さい」
「はい。包み隠さずお話しします。私は数々の罪を犯しました。神への冒涜、いや、反逆です。私は
「苦しんでおられたのですね。さぁ、続けなさい。神は
マフィアのつながりから侍女に性暴力を振るっていたこと。毎晩、酒やクスリに溺れ、遊女屋に入り浸っていたことを俺は話した。
「明日、旅立つにあたって、償いとして侍女のシルヴィア・ロザンを解放したいと思います。それを大司教に認めてもらいたいのです」
「認める? わたしが?」
大司教は、これは懺悔ではないと気付いたようだった。
「何を、ですかな」
「ですから、シルヴィア・ロザンという侍女の解放です」
大司教の顔は微笑みを失っていた。やっと察したのであろう。マフィアを裏で動かしているのは誰か、ここにいるキース・バージヴァルは知っていると。
俺はかまわず言葉を続けた。
「大司教の手の者は宮廷に何人も入り込んでいるのでしょ。伝言はその者らに。私はマフィアとは話しません。直接あなたと話がしたいのです」
この言葉を良しと取ったか、
カールが廃嫡されるとしたら、大司教としても俺と直接つながりを持った方が良いと普通考えるはず。しかも、それをこの俺の方から申し出ている。
状況が状況だけに、教会のバックアップが必要だと俺が願い出ているとも取れる。悪い話ではない。
大司教は俺が王太子になると踏んでいるんだ。だったら、いつまでもムーランルージュって訳にも行くまい。偽の王座はもう必要ないのだし、なにより、これからのキース・バージヴァルにスキャンダルなぞあってはならない。
予想通り、大司教は俺の提案を飲んだ。その日のうちにシルヴィア・ロザンは解放され、王都センターパレスから旅立って行った。もちろん、それ相応の金品を持ってだ。
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あとがき
次回から第二章になります。場面は陰謀渦巻く宮廷からドラゴンの領域へと移ります。キースの冒険、ドラゴンとの遭遇対決もあるので、読んで頂けたらと思っております。
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