第13話 ウォード家の案内は

 本当に急だった。


 それからはアリスの言う通り翌日荷運びに来た人たちから必要な物とかを聞かれて運び出された。


 当然、私生活を送っている寮の荷物まで運び出されて今、私たちはロズイドルフ領、ウォード家の屋敷の前に来ていた。


 侯爵家だけあって屋敷はでかい。


 鞄を持ちながら大きな門の前で感嘆の声を上げる私にアリスはそんなに驚くこと? と不思議そうに見てくる。


 隣で私と同じ反応をするサリーに感覚が同じで安心していると門が勝手に開いた。


「さ、行きましょう」


 アリスに案内されて屋敷の前まで着くと使用人が数人控えており私たちの荷物を受け取った。部屋まで運んでくれるらしいが、慣れない。


 屋敷内に入ってすぐ、玄関ホールにアランが立っていた。


 出迎えをするような人には見えないのだけれど、仮にも婚約者だからなのか。正直意外だ。


「来たか。今日からここが君たちの家だ。好きにするといい。屋敷の案内はアリス、頼む」


「はい。お兄様」


 優雅に一礼したアリスを横目にあんたは案内しないんかい、と内心ツッコミを入れる。


 いや、冷静に考えて彼が案内したところで会話が持たない気がする。


 絶対に持たない。アランが案内する想像をして頬が引きつった。


「これからよろしくお願いします」


「私までお招きいただきありがとうございます。よろしくお願いします」


 アリスの真似をして一礼して顔を上げると、アランは「ああ」とだけ残して去った。


 早速アリスが言っていた私との婚約が嬉しかったとか嘘だなと思った。


「もう、お兄様ってばカレナが来て緊張しているからってあんな態度はダメよ」


 頬を膨らませているアリスの言葉に聞き間違いかと自分の耳を疑う。


 緊張? あれが?


「あ、お兄様は今からお仕事なの。だから案内出来ないって意味だから誤解しないでね。さ、二人とも屋敷の中を案内するわね。付いてきて」


 テンションが上がっているアリスを先頭に案内が始まった。


 一階が食堂、書斎、応接間、工房になっており、半地下には執務室、ワインセラー、使用人ホール、キッチンと食料倉庫、二階に私たちの寝室、浴室がありもちろんアランの部屋も同じ階にありなぜか隣だった。


 屋根裏部屋には物置と使用人の寝室。裏玄関を通ると厩舎きゅうしゃ、菜園、洗濯室、武器庫、表の玄関からは庭園に出られる造りになっていた。


 工房内は学園の研究室を限りなく再現しており違和感はない。


 違和感というか、落ち着かないのは寝室の方。


 四柱式の天蓋ベッドを中心に暖炉、鏡、カウチ、ティーテーブル、チェアが置かれている。


 本棚やライティング・ビューローまである。今までの部屋と違いあまりの豪華さに眩暈を起こしそうになる。


 家具の値段を考えただけで胃が痛くなりそう。生活に慣れるまで工房に泊まろうかと考えている私にアリスが声をかけてきた。


「屋敷内の説明は終わりよ。お昼過ぎにはお父様とお母様が公務を終えて戻られるから挨拶をしてその後は採寸ね」

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