第14話 ジェームス・ウォードとケイティ・ウォード

「採寸? なんで?」


 疑問を口にするとアリスがキョトンとしている。


 私も同じだ。服は自前があるし、採寸の必要性を感じない。


「なんでって、お兄様との婚約を貴族の皆様に公示するためのパーティーが開かれるの。そこに着ていくドレスの採寸よ。さっきも言ったじゃない」


「ごめん。屋敷内が凄すぎて聞いてなかった」


「もう。サリーもよ。二人とも採寸してドレスを仕立ててもらうわ。あとテーブルマナーとか諸々仕込んでもらうから覚悟してね」


 ニコリと笑みを向けてくる天使のような小悪魔に私たちは頬を引きつらせた。


 もうすでに元の暮らしに戻りたい。私は天を仰いだ。




 アリスの言う通り昼過ぎになると使用人たちが慌ただしく玄関に集まった。アリスに促されて私たちも玄関ホールへと急いだ。


 扉が開きアランたちと同じホワイトブロンドの髪にヘーゼル色の瞳を持つ男女が入ってくる。


 年齢は四十代くらいで整えられた口髭は男性をより紳士的に見せている。女性は一言で言うなら美人。


 アリスが年齢を重ねたらこんな風になるのだろうかと考える。アリスたち容姿は遺伝なのだとはっきりとわかる。


 優雅な足取りで進む二人に使用人たちが頭を下げる。


 アリスが二人の前でスカートの両裾を持ち一礼した。私たちも顔を見合わせてアリスに習う。


「お父様、お母様おかえりなさい」


「おぉ、アリス。ただいま」


「ただいまアリス。そちらの方が?」


「ええ。紹介するわ。私の大事な友人のカレナとサリーよ。カレナ、サリー、お父様のジェームス・ウォード、お母様のケイティ・ウォードよ」


 自分たちから友達になろうと言ったけれど、改めて両親に紹介されるのはくすぐったい。


 そう言えば突然の婚約話で二人の両親について名前すら知らないままだったことに気づく。


「君たちの話はアリスからよく聞いているよ。娘と友達になってくれてありがとう。立ち話もあれだ。少ししたら応接間に来てくれ。そこで話そう」


 ジェームス様が微笑むと目元の皺が深くなる。優しい雰囲気に息子のアランの顔を思い出して今のところ記憶にあるのは無表情ばかりだなと思う。


 笑みを見せた時にはジェームス様と同じで柔らかく微笑むのだろうか。まったく想像出来ない。


「美味しいお茶とお菓子の用意をお願いね」


 考え事をしている間にケイティ様が使用人に告げて私たちに微笑んだ。美人とはこういう人のことを言うのだろう。


 腰まであるホワイトブロンドの髪に宝石をあしらった髪飾り、化粧は濃くなく、薄く引いている口紅は艶やかさがあった。頑張っても私はあんな風にはなれない。

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