第12話 突然ですが、引っ越です
中には弾が十二個入っている。薬莢は透明で中には魔鉱物と魔石を加工した発射薬が入っている。
私がテリブの森で魔獣相手に戦う時に用いるのは主に銃だ。
銃は師匠との共同開発品の特別なもので弾は石の特性に応じて効力を発揮する。
例えば氷系であれば弾丸を打ち込んだ際に氷を発生させる。
これと剣を使って戦闘している。
弾丸以外にも魔石や魔鉱物から作られるものはあり、アリスの魔力から作られた魔石は加工してペンダントにしている。
魔石は常時力を発揮されても困るので、魔力を吸い上げる透明な石にあらかじめ細工を施している。石の所有者は使う前に石に込められた魔力と自分とのパスを繋ぐ。
それは魔力を吸い上げて魔石となってからも有効であり、所有者が発動を念じない限り発動しない。
これは魔力の流れを視認できる私と師匠以外には出来ない芸当だから例え魔石を奪い取ったからと言って自由に使えるわけではない。
魔道具として流通しているものに関してはほとんど魔鉱物から作っているため、所有者の承認も不要だ。魔石は稀少で特別であり、悪用されも困るからという理由が強い。
「また新しい弾丸作ってる。今度は何と戦う気?」
「いつか魔石獣と戦うことになれば使うかもね。そんな機会ほとんどないだろうけど」
「カレナ、サリー!」
箱を棚に戻してるところにアリスが帰ってきた。
「あれアリス。お兄さんと一緒に帰ったんじゃ」
「あのね、お兄様からの伝言を預かってきたの」
「伝言?」
アリスが両手を合わせて満面の笑みを向けた。
嫌な予感がするのは気のせいではないだろう。こういう時の嫌な予感とはよく当たるものだ。不思議と。
「ええ。お兄様が明日からカレナは私たちの家で暮らすように。サリーも望めば一緒にどうぞって」
「は?」
「え?」
私たちの声が重なる。婚約話を聞いたのが少し前。
工房の話があった気はしたけれど、明日には引っ越し!?
話が急すぎてついていけない。あ、でもサリーが一緒なら心強い。
「それにしても急すぎない?」
「うーん。急ではあると思うのだけれど、お兄様ったらカレナとの婚約がよっぽど嬉しかったみたい。テンションが高いもの」
無表情だったアランを思い出して私は首を傾けた。
「あれで?」
「ええ。お兄様は感情をあまり表に出さないだけなの。慣れれば分かるようになるわ」
慣れる点についてはお互い様か。互いに慣れる前に婚約破棄される方が先かもしれない。
「ところでサリーはどうするの?」
「え? あー、そうね。あんたのストッパーは必要そうだしついていこうかな。そっちの領も気になるし」
「いいの!? だってサリー彼氏欲しいとか、婚期がとか言ってたのに」
「あんたが無事に結婚してからでも遅くないし、それに環境が変われば新しい出会いもあるかもしれないしね」
苦笑交じりに言う学友に私は正直安堵していた。
アリスがいるとはいえ、いきなり明日から婚約者(仮)の家で暮らすのは不安だ。
「ありがとう、サリーママ」
「誰がママだ。こんな問題児を産んだ覚えはない」
冗談にサリーが睨んでくる。これ以上怒らせると前言撤回されそうなので私は話題を変えた。
「いきなり引っ越しって言うけど、荷物とか特にこの研究室の物とかどうするの? 結構量あるんだけど」
「それならもうすぐお兄様が手配した引っ越し業者さんが来るはずよ。その方たちに指示をお願いね」
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