10
「おはよう。今日もゆっくりと休もうね」
朝起きて、連れ合いと挨拶を交わす。
連れ合いは今日は休みで、自分はかねてより腰の痛みがあり会社は休んでいる。程々には回復してきたため、明日から出社する予定だ。
二人でゆっくり過ごすには格好の一日だが、二人のやり取りはどことなく堅かった。
実は数日前にちょっとしたことで口論した。一定の理解を促しあって和解はしたが、まだ強めに口論したことを互いに忘れられていない。
知り合って親交を深め、特別な存在となり、同居人となった。
やがて互いの了承を得て、一生を共にする連れ合いとして今は過ごしている。
それでも時々口論はするし、そのたび仲直りをしていく
それは必要なことであり、その都度絆を深めていきたいと自分は考えている。
「私はちょっと出かけてくるから、ゆっくり休んでて」
書類上の変更の手続きと買い物を兼ねて出かける連れ合いを見送る。
アパートにひとり残されると、なんとなく空虚な気持ちになる。
何をしてればいいのか、一人でどんな風に過ごしてればいいのか。そんなことで悩んで、何もできずにネガティブなことを考えてしまうこともある。
例えばそう、今日は11月22日。
世間的には11(いい)22(夫婦)の日らしい。
果たして自分たちは、本当にいい夫婦でいられているのか……そんなことを。
そういえば朝は二人で朝食を摂っていた。
保温しておいた白米を活用し、連れ合いがオムライスを作ってくれた。
ケチャップや常備野菜と卵を活用し、ふわふわの卵をケチャップライスに乗せたおいしい朝食だった。
「うん、おいしい、いい出来!」
と連れ合いも満足げだ。
こうしてともに生活する前、自分の朝食といえばシリアルか菓子パン、ゼリー飲料のどれかかその組み合わせばかりだった。
その恩恵にあやかり、美味しかったと素直な気持ちを伝え、自分にできるお返しとして、皿を洗ったりするのを受け持つことが多い。自分は料理は得意ではないが、皿を洗うくらいはできる。
それだけに終始すれば、なんら問題ない関係に思える。それだけに終始すれば。
お昼前に連れ合いが帰宅する。
「ただいまー。お腹ぺこぺこ。色々買ってきたからお昼ごはんにしよ!」
と連れ合いが買い物を整理しつつ、準備にとりかかる。
もちろん自分も手伝いをすると申告する。
「うん、ありがとう、助かるよ!」
自分は料理は得意ではないが、連れ合いの指示のもとに手伝いくらいは出来る。
「やってみたい料理があるの、やってみていい?」
連れ合いの提案に反対する理由もなく、さっそくお昼の準備を進めることにした。
やってみたい料理というのは、ホットケーキミックスの素で、肉まんを作るという試みのことだった。
ホットケーキミックスの素をこね、市販のシューマイを潰して混ぜたものを包み込み、水をひいたフライパンで熱するというやり方だ。
どうしてもホットケーキミックス製の皮が厚くなり、シューマイをこねたタネを堤ずらかったり、なかなか温まらかったりと、苦戦しているようだったがどうにか完成をした。
「よし、いただきます!」
程なくホットケーキミックス製肉まんが完成する。
ほかにも連れ合いが買ってきてくれた、有名なたこ焼きチェーン店のたこ焼きや、ノンアル飲料などもテーブルに並べ、昼食の時間が始まる。連れ合いはアルコールも嗜んでいた。
早速という感じで連れ合いは、ホットケーキミックス製肉まんを食べると、
「あつ、あつ、あっつい!」
と目を白黒させつつ食べていくが、
「うん、おいしい。これはなかなか!」
どうにか飲み込むと、そう絶賛する。
自分も熱さに気を付けつつ口に運ぶ。ホットケーキミックス固有の洋風の甘さと、シューマイの中華な味が混じり、未知の食感だったが、味はとてもおいしかった。
もちろん、有名チェーン店のたこ焼きも安定、定番のおいしさだった。
そんな風に昼食の時間は過ぎていったが、やがて、
「残ってるホットケーキミックスでクッキー焼きたいな」
そんなことを連れ合いが切り出した。
曰く、ホットケーキミックスは肉まんのためだけではなく、色々な料理やお菓子に応用が効くかららしい。
いわゆる食事の後に連れ合いが、お菓子を作りたいと切り出すのはこれまでも多くあり、「酔ってお腹が満ちてくるとお菓子を作りたくなる」とのこと。連れ合いはそれを、酔っ払いお菓子作り、と定義している。
いわゆる知り合ってから、同居人となる前からもその様子には立ち合い、市販品のお菓子にはない、作り立て良さを何度も味わってきた。連れ合いは料理の腕もさることながら、お菓子もなかなかのもの。その申し出に賛成した。
「じゃあやろうか。冷蔵庫から板チョコ出してもらっていい?」
冷蔵庫にはいつも板チョコが常備されている。それを取り出すと、さっそく連れ合いは調理に取り掛かる。
──手早く準備をし、トースターで丸型にし割った板チョコを混ぜ込んだホットケーキミックスを焼き上げ、即席のクッキーが完成した。
少々早いが、三時のおやつにはちょうど良かった。
早速コーヒーを淹れ、食卓にクッキーと共に並べる。
「あつ、あつ、あっつい!」
連れ合いはまたも、クッキーの熱さに目を白黒させてしまっているが、
「うん、なかなか、いいんじゃないかな。またやろう!」
とクッキーの出来栄えに満足げだ。
連れ合い手製のクッキーは、形やチョコの混ぜ込みの具合はバラバラだが、それが市販品にない不均一な味となり、飽きない食感だった。
また作りたい、その連れ合いの言葉に、もちろん賛同をした。
その後は二人でまったり、のんびりと過ごし、やがて夕方。
自分は決して料理は得意ではないが、かねてから折に触れ実施するようにしている。連れ合いが料理が得意、かつ好きであれど、任せきりにするわけにもいかない。朝と昼、折に触れて夜は自分が用意すると公言していた。
「夕飯の準備は、お任せしても大丈夫かな」
そんな風に、確認するように連れ合いが切り出す。
なんとなく、慎重な感じの口調だった。
これまでに連れ合いとは、数は多くないが、喧嘩をしてはいる。そのいずれもが、実は料理や食材の準備や、食べ方、その時間などによるものが大半だった。
重ねてだが自分と連れ合いでは、料理スキルに大きな開きがある。
本来は料理関係はすべてゆだねた方がスムーズに進行すると承知だが、それだけでは進化も変化もないし、やがて互いに、二人で飲み食いする時間に飽きてしまう気もする。
二人で飲み食いする時間は大事にしたい。
そのためにはとるべき道はひとつだった。
大丈夫かな、という連れ合いの質問に、肯定の意で頷いておく。
「うん、じゃあお任せするね!」
すると連れ合いは嬉しそうにそう答えた。
さっそく夕飯の準備に取り掛かる。
色々なことをやろうとしても仕様がない。もともと今日料理をするのなら、作る品物は一品で、かつ品も決めていた。
連れ合いが好んで見るテレビ番組に、子供向けの料理番組がある。
ちょっとしたストーリー仕立てのアニメがあり、その内容にちなんだ、割と子供でも安全に料理できる品物のレシピが紹介される番組だ。
その中で紹介されていた、『なすのトマトチーズペンネ』という品を作ると決めていた。
レシピは以下となる。
・なすを1cm幅の半月切り、ベーコンは1cm幅に切る。
・フライパンにオリーブ油、にんにくチューブのにんにく(※1)、ベーコンを入れ中火で炒める
・ベーコンに薄く焼き色がついたら、トマトの水煮缶詰400g、水300ml、トマトケチャップ大さじ1、砂糖大さに1/2、鶏がらスープのもと少々、切ったなす、ペンネ、を入れてよく混ぜ、強火にして、煮立ったら蓋をして弱火にして15分くらい煮込む
・ペンネが柔らかくなったら蓋を取り、混ぜ合わせる
・ピザ用チーズを全体に広げるようにのせ、チーズが溶けてきたら火を止める
※番組内では生のにんにくを使用
というようなレシピとなる。
決して料理は得意ではないが、レシピの通りに進め、どうにか完成をさせた。
ペンネを煮込んでいる途中に、連れ合いのフォローも得つつ、きゅうりとサーモンとクリームチーズのバジルとオリーブオイル和えと、日中に連れ合いが購入した総菜も温め、夕食の準備は完成した。
「おいしそう、準備してくれてありがとうね。いただきます!」
さっそくなすのトマトチーズペンネを口に運ぶ連れ合い。
一口を食べ、
「いいね、とってもおいしい。作ってくれてありがとう!」
と連れ合いは絶賛してくれた。
決して難しい調理ではないが、ほめられると率直にうれしい。
自分でも食べてみると、トマトの風味とペンネの食感が程よく混ざり、一言で言うと美味しかった。
二人でペンネを食べ進め、あっという間に皿は空になった。名残惜しそうに連れ合いは空の皿を見つめる。
「美味しかったなあ……また今度作ってね。また食べたいな」
程なくほかの料理も底をつくが、連れ合いは、
「うーん、もう少し食べたいなあ、何か作ろうかな」
と何やら画策している。
ひとしきり用意した料理を食べ終えた後、「もう少し食べたい」と連れ合いが追加で料理するのは、よく見る光景だ。
とりあえずは料理に慣れていくため、また作りたい。
料理ができれば夫婦関係の何もかもが解決できるわけではないのだが、料理が好きで食べるのも好きな連れ合いと、いい夫婦として過ごしていくためには、料理にもっと慣れていくのは間違いではないと思っている。
「はー夜もおいしかった、今日はこれではらまん! ありがとうね!」
そういって連れ合いは満足そうにお腹をぽんぽん叩いている。
はらまんというのは、腹が満腹になった様を表す言葉で、連れ合いが好んで使用する。
朝はどことなく堅かった二人だが、腹もふくれ、いつもの調子の二人に戻っていた。
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