「サンマ食べたいね!」

 そんな連れ合いの強い要望があり、その日の夜はサンマを焼くことにした。

 自分も同意だったが、二人がサンマ推しになったのは、テレビ番組で、サンマが取り上げられていたからだ。

 その日は平日で連れ合いは仕事。自分はというと数日前から腰の不調からくる足の痛みで会社は休んでいた。幸い家事はある程度できる。サンマを焼く役割を拝命するべきは自分だった。準備しておくことを申し出ると、

「うん。じゃあよろしくね。でも難儀だったら休んでていいからね!」

 不調の自分に寄り添う連れ合いの言葉を返され、気持ちが軽くなる。サンマを焼いておくことを約束し、出勤する連れ合いを送り出した。


 近頃、サンマは高い(価格が)。

 調べたところ漁獲量が年々減少しているらしく、反比例して価格は高騰しているらしい。

 当時、実家暮らしだった時は、焼いたサンマをよく買っていた。

 今は調理前の生のサンマが、当時の焼いたサンマより高い。

 結果なかなかサンマを買う機会はなくなった。

 が、だからこそ食べる機会には、ちゃんと上手に焼いておいしく食べたいし、付け合わせにもこだわりたい。

 先日見た番組では、大根おろしのほか、すだちも添えられていた。

 今は近所のスーパーマーケットにいる。サンマは幸い手に入った。大根は冷蔵庫にある。

 あとはすだちだけだが、どうにも見つけられない。

 似たものを見つけたと思ったら、それはレモンだった。

 仕方なく店員に聞いてみたら、この店にはないという回答だった。

 まあ、自分の独断となるが──代替品として、レモンを購入することとした。


 帰宅して色々と雑事をこなした後、ついうとうととしてしまい、リビングのソファで寝落ちてしまった。

 ようやく起きたのは連れ合いのスマホへの着信があったからだ。慌ててソファから飛び起き玄関に向かう最中に、自分の失態に気づく。玄関扉のドアガードを締めたままにしていた。慌てて玄関に向かいドアガードを開け、扉を開くと、

「ただいまー。寝てたんだね。起こしてメンゴ」

 と、少しも気を悪くした様子のない連れ合いが、笑って立っていた。

 とはいえ落ち度は落ち度、連れ合いに平謝りする。

 しかし連れ合いは相変わらず笑い、

「いいよいいよー、それより早くご飯にしよ。お腹ぺこぺこ」

 笑って連れ合いは荷物を置くと、シャワーを浴びるためバスルームに向かった。

 連れ合いは笑って許してくれているが、自分としては、落ち度は素直に反省し、汚名は返上していく。それしか選択肢はない。つまりはサンマを上手に焼く。それしか道はない。


 早速準備に取り掛かる。

 サンマは二匹パックを購入してある。スマホで調べたレシピを頭の中で反芻しながら作業を進める。手順は以下となる。


1、胴体の部分で斜めに切り、頭の方としっぽのほうに切り分ける。

2、表側、裏側の両方に塩をなじませ、サラダ油を敷いたフライパンに置き、中火で熱していく。

3、8分ほど焼くと火が通り焼きあともついてくるので、ひっくり返して反対側も同じように焼く。

4、反対側も焼けてきたら、念のため再度ひっくり返して焼く。

5、大根をおろし、おろした大根を手でつかんで汁を絞り、小鉢に移す。

  (残った汁は別の用途に使えるので保管しておく)

6、すだち(今回は代用でレモン)を切る。

  (レモンは縦に半分に切り、さらに縦に2回半分に切り、2切れそれぞれのサンマに添える)

7、焼きあがったサンマを水気をとった皿に盛り、大根おろしとレモン2切れを添えて完成。


 連れ合いがバスルームから出てきた頃合いで、どうにか準備が整いつつあり、髪を乾かした連れ合いに、レモンを切ってもらう。せっかくなのでレモンを題材にした有名な歌を二人で軽く鼻歌で歌いつつ。自分も連れ合いも好きな曲で、好きなアーティストだ。恋人同士として交際していた頃、車の中でよく聞いた。

 そうこうしているうち、夕食の準備は整った。

「おいしそう! では早速、サンマを……」

 と言いサンマを口に運ぶ連れ合い。「うん、おいしい! これは日本酒、日本酒があう……」

 うわごとのように連れ合いはそう言うと、ちょうど自分のバイク好きの友人がツーリングのお土産にとくれた日本酒をお猪口に注ぎ、きゅーっと飲む。連れ合いは目を閉じ、うつむいて声にならない声をあげる

「~~~~~~~ツ、さいっこう!」

 やっぱりサンマには日本酒よ……と満足げにつぶやく連れ合いを眺め、自分もサンマを食べ、日本酒を一口飲む。自分は酒はそれほど強くないし、味もそれほどわからない。しかしバイク好きの友人がくれた日本酒は、飲み口がさらりとし、味に透明感もあり、とてもおいしかった。サンマもよく焼けていて、どんどん食べていった。

 そんな折、連れ合いが驚いた声をあげる。

「相変わらずすごいね、骨も頭も食べるんだね」

 そういう連れ合いはサンマの骨をきれいに残していたので、代わりに食べておく。

 サンマは尻尾から頭まですべて食べられる。そこが自分がサンマを好きな要因のひとつでもある、味ももちろん好きだ。

「私も頭食う! ……うん、意外といけるね、サンマ最高!」

 連れ合いも丸ごとサンマを食べてくれた。そんな風に夕食の時間は過ぎていく。

 汚名返上出来たのなら、自分としても最高だ。

 サンマがもう少し安くなってくれることを祈りつつ。

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