2023年11月3日。

 この日は同居人と自分にとって最高の一日になるだろう。


「そろそろ準備オッケーかな。何時くらいに出る?」

 朝、同居人と二人で出かける準備をしていた。

 せっかくの特別の日となる予定の一日であり、準備にも余念がない。自分も同居人も服は多く持つ方で、着る物を選ぶのにもそれなりに時間をかける。軽く出る時刻をすりあわせ、さらに準備を進める。

「よし、鍵よし財布よし携帯よし。出かけよう!」

 互いの準備が整い、今日は同居人の運転で出かけることとした。

 天気もよい。絶好の記念日日和となるだろう。


 まずは市役所で『ある届け出』を行ってきた。

 今日のメイン・イベントであり、二人にとって大事な手続きだ。


 その手続きをつつがなく終えたのが、そろそろお昼時という時間帯だった。

「お腹減ってきたかも。ごはん食べに行こう!」

 今日は大事な一日だから、普段はあまり行かないようなレストランを予約していた。同居人の軽快な運転でレストランに到着すると、ちょうど予約していた11時となっていた。

 山の麓にあるそのイタリアン・レストランは一階が高級家具屋になっている。レストランは2階であり、すでにテーブルには何組かの客がいた。

 予約席に案内されると、そこは窓際のいい席だった。予約をしておいて正解だった。

「いい雰囲気の店だねー。あんまりキョロキョロしたらまずいかな」

 普段あまり来ない感じの店で、同居人も気持ちが高揚しているようだ。

 コース・メニューとなっており、飲み物はその場で注文をした。

 

・ノンアルコール赤ワイン(同居人)

・レモンビール(自分)


「おーいし! ほんとのワイン飲んでるみたい!」

 と同居人は大層に感動していた。自分が頼んだレモンビールも、レモンとビール二つの味がしっかりあり、かつ交じりあい、とても良い味となっていた。

 ほどなくしてコースメニューが運ばれてくる。

 大まかにメニューは下記となる。


・イチジクを揚げたものと生ハム添え

・鶏肉とゼラチンを固めたものと里芋のスープ

・上品なパスタ

・上品なピッツア

・豚肉を上品に焼いたもの

・上品なデザート


 料理の名称は運んできたスタッフが逐一説明をしてくれたが、よく覚えていなかった。同居人と僕はよく食べる方だが、どちらかというと大衆的な味や食材、かつ品数の多い食事を好む。そんな二人にとって、普段利用しない高級レストランの味は、普段と真逆であったが、その上品な味で胃を満たしていくものだった。

「最高……」

 と同居人は料理に舌鼓を打つたび、感動による感嘆の声を上げた。

 窓際の席から壁一面の窓越しの山あいの景色を眺めながらのおいしい食事で、話が弾まないわけがない。

「今日から新しい関係だけど、これまで通りに仲良く、おいしいもの食べて、二人で過ごしていこうね」

 自分も全く同じ意見だった。

 そう、今日から同居人と自分は新たな関係となる。

 今日二人は、役所にある届書を提出した。

 名称は【婚姻届】。

 晴れて二人は結婚をし、夫婦となったのだった。


 いったん二人はアパートに戻り準備をした。

 この後は二人で、一時間ほど車を走らせた場所の山間にある公園で、紅葉を楽しむ予定としていた。

 しかしどうも自分の体調が、こんな日だというのにすぐれなかった。

 最高の一日にするはずだった。実際ここまでは最高の一日だった。

 天気も快晴、おいしい料理を食べ、仲良く会話も絶えなかった。(いつも仲良しではあるが)

 それが残念でならず、泣きたい気分だった。

「無理しないでおこうよ。遠出は控えるか、近間で楽しもう。私はそれでも大丈夫だよ」

 無理しても当初の予定通りに楽しむ。

 無理せず近間で楽しんでいく。

 散々に悩んだ結果、自分は後者を選択した。

「よし行こう。また運転するからね!」

 相変わらず元気な同居人──いや、連れ合いに引っ張られるように、再度二人は出発をした。


 それから二人は下調べもせず向かった花屋で、記念に花を買った。一見とっつきにくい店構えだったが、想像以上によい花束をこしらえてもらえ、一気に二人はご機嫌となった。相変わらず天気も良く、散策にもちょうどよい気候。近間で楽しむ分には帰路の時間を気にする必要もなく、万全の体調ではない自分も、全力で楽しむことが出来た。まだまだ日も高く、時間的余裕があるのもよかった。二人は40代、楽しんだ後は、家に帰って休む時間も必要なのだ。

 そのあとは近くの山間にある公園に向かった。神社もあり二人でお祈りをした。きっと二人の祈りは同じ。決してこの公園は紅葉の名所というわけではないが、木々はまだまだ紅葉の始まりで、「紅葉楽しむのはまだ先で良かったのかもね」という共通認識も得た。快晴ということもあり公園はそれなりに人が出ていたが、ちょっと道から外れた人けのないところで、記念撮影もした。二人だけのウェディング・フォトといえた。


「楽しかったー。スーパーとドラスト寄って帰ろうね」

 満足げな連れ合いに頷き、二人は帰路につく。

 体調は満足いくものではなかったが、今日は最高の記念日、最高の一日だった。

 




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