夏の盛りを過ぎた10月の上旬。

 その日は同居人と休みが被る日で、二人で出かける約束をしていた。

 前々から予定していた案件だったが、唯一の懸念は天気。秋の天気は変わりやすく、昨今は雨降りが多かった。

 しかしその日は、それなりに雲は出ているが、晴れ間もあり、なんとか晴れといえる天気。念のため同居人に最終の意思確認をすると、

「うん、お出かけしよう!」

 と同意を得られたので、手早く身支度をしてアパートを出た。

 向かうのはヒスイの産地として有名な観光地となる。


 目的地までは高速道路を一時間ほど走る距離がある。

 海岸際の山間を縫う道のりはそれなりに良い景観で、暑すぎず、寒すぎずのほどほどの塩梅の天候。助手席の同居人も、ほどほどのテンションで、長い高速道路の道のりを飽きずに楽しんでいるようだ。

 途中、海岸に近い場所のパーキングエリアで休憩をとった。

 朝食を摂ったが同居人は小腹をすかせていたようだ。

「あの屋台は何を売ってるのかな」

 同居人が見つけた屋台では、カレーパンを売っていた。

「食べたいな、食べよう!」

 自分も何か腹に入れたかった。しかし旅は始まったばかり。食べすぎて後にお昼を食べられなくなるのは避けたい。結果、カレーパン一個を買い、二人でシェアをした。

 海風を浴びながら、パーキングエリア外のベンチでカレーパンを食べた。

「おいしいー、最高。食べてよかった!」

 と同居人は上機嫌だ。幸先のいい旅の始まりだった。


 高速道路を一時間と少し走り、たどり着いたのはヒスイが取れるとして有名な海岸だった。玉砂利が延々と続く広々とした風光明媚な海岸──のはずだったが。

「波、強いね。ていうか波、強いね!」

 同居人の指摘の通り、その日は波がとても強い日だった。これから冬を迎える季節柄か、それとも曇の目立つ天候だからか。とにかく波が強かった。

「とりあえずヒスイ探してみよう」

 と同居人はしゃがんでヒスイを探すが、波が強い=海岸が狭くなる、ということであり、広々とした海岸とはいいがたく、開放的な気分は味わえなかった。

「お、この石きれい! 持って帰ろう」

 同居人はそんな状況下でも楽しんでいたが、波の強さはいかんともしがたく、我々は短い時間でその海岸を後にした。

「お腹減ってきたかも。お昼食べに行こう!」

 波の強い海岸を後にし、次の目的地に向かった。


 車を少し走らせて向かった先は、ラーメン屋だった。

 時刻は12時の少し前。お昼は混み始めるため、早めの時間を狙っていた。

 狙い通りラーメン屋はほどほどの人の入りだった。

 店内はカウンター席と座敷とテーブル席の構成。あいにくカウンター席以外は埋まっていた。身体的な問題で、自分としては椅子の席が望ましい。同居人も配慮をしてくれ、椅子のカウンター席に座った。しかし。

「ちょっと椅子が固いかも。大丈夫?」

 と同居人が心配をしてくれる。確かに木製のカウンター席の椅子は堅かった。

 おまけに、注文の方式がQRコードとスマートフォンを使用するやり方で、注文されたかどうかやや不安になる方式であった。

「なかなか難しいお店だね」

 自分もそこは同意だった。文明の利器は時に人を不安にさせる。

 ほどなく到着した注文品は、安定した良い味で、ようやくひと心地をつけた。

「おいしいねー。餃子もおいしい。水餃子もちょっと食べたい。餃子も食べて」

 と自分が注文した水餃子と、同居人が注文した餃子を交換したりもした。

 観光地の飲食店は、地元ではない分、選ぶのがなかなかに難しい。

 お腹の膨れた二人は次の目的地を目指すことにした。


 車を少し走らせて到着したのは、古式ゆかしい日本庭園だった。

「すごい雰囲気よさそうなところだね」

 巨大なヒスイの原石や、太古の昔の火山活動で飛来したらしい岩や、高低差を生かした道のり。池で泳ぐ立派な鯉など、よく手のかけられた日本庭園だった。

 道のりの途中にはヒスイをモチーフとした工芸品などが飾られた小さな美術館などもあり、飽きさせない造りだった。

「落ち着くね。最高の落ち着きプレイスだね!」

 と同居人も肯定的にとらえてくれていた。

 もともと、この庭園が気に入っている場所だからと、今回の旅行を提案したのは自分だった。海岸の波が強すぎたり、飲食店がとっつきにくかったりするアクシデントはあったものの、庭園は無事に楽しめた。

「いい景色だねー。落ち着く」

 お茶しながら庭園が眺められる喫茶店で、足を休めつつ景色を楽しんでいる。

 せわしない日常を忘れられるひとときの時間だった。


 その後、日帰り温泉で疲れをいやしに行った。

 その日帰り温泉も気に入りの場所で、いかにも温泉という水質の熱めの風呂に、熱いサウナ。そして地下水をそのまま使用した水風呂と、自然の景色が楽しめる外気浴スペースを堪能していた自分は、落ち合う時間をやや過ぎて風呂から上がった。

「おかえりー。倒れてるかと思って心配したよ」

 と、30分も前に上がっていた同居人に言われ、遅れたことを平謝りした。

 最高な時間を自分でばかり堪能してはいけないということを知った。


 日が落ちる前に家路についた。戻る道のりも約一時間と少しの高速道路。

 夕飯は何をたべようかと相談しながらの道のりとなった。

「今日はコンビニ飯とかどうかな」

 という同居人の提案で、アパート近くのコンビニで食料を買い込んだ。

 ラインナップは以下となる。


・巻きずし(4切れ入)

・たまごサンド

・焼き鳥

・豚のモツとサラダ和え

・白玉とあんこと生クリームのスイーツ

・子持ちホタルイカの佃煮(帰りのパーキングエリアで購入)

・一口羽二重餅(帰りのパーキングエリアで購入)

・同居人手製のサラダ


「あーおいし!たまごサンド大好き。ホタルイカもおいしい。最高!」

 と満悦の同居人と二人で、コンビニ飯+お土産を食べていった。

 いろいろなことがあったが、結果的に最高の旅となり、良き一日となった。

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