第107話 真実を知る
次の日。紗奈は由美に教えて貰いながら特訓したお団子に髪を結んで、いつも通りエントランスで菖蒲と待ち合わせる。
早く悠にも見せたい。と紗奈は菖蒲を急かしながら歩いていたのだが、残念ながら駅に悠はいなかった。
「あれ? 悠くんが遅いの珍しいね」
「そうよね。いつもは私よりも早いのに」
「寝坊か? あいつ、梅雨時は体調崩すって言ってたし」
ピロン
みんなで不思議に思っていた頃に、悠からのメッセージが紗奈のスマホに届いた。
「あ……。悠くん、熱が出てお休みなんだって」
紗奈はそう言うと、途端に寂しくなってしゅんと肩を落とす。
「熱……大丈夫かなあ」
昨日も体調が悪そうだった。あおいはそれを思い出しながら、紗奈の背を軽く撫でる。
「心配だね」
「うん……」
きっと昨日、無理をしたのだ。あおいはそう思ったが、心配している紗奈にそんな事は言えなかった。
ただ、紗奈のために頑張ったのであろう悠に、紗奈の看病と言うご褒美をあげたいと思ったので、口を開く。
「私、彼と同じクラスだからプリントを貰うだろうし、紗奈ちゃんがお見舞いに持って行ってあげて?」
「うん。そうする」
寂しそうではあるが、「ありがとう」と言って、紗奈は笑顔を見せてくれた。
教室に着くと、千恵美達がお団子を「可愛い」と褒めてくれた。いつもなら嬉しくて満面の笑みを返すはずなのに、今日は悠の事が心配で、控えめな笑顔となってしまう。
「どうしたの?」
「元気ないね。今日……」
いつもの元気がないから、二人にもすぐに気づかれてしまった。
「うん。悠くん、今日お休みなの」
周りの生徒に聞かれるのは、隠している身として困ってしまう。小さな声でそう伝えると、千恵美と美桜も心配をしてくれた。
「そりゃ、心配だな」
「うん……」
今日の紗奈は大人しい。しおらしい紗奈にアタックしようと、桐斗がめげずに声をかけてくる。
「せっかく可愛く髪をセットしてきたんだ。ご褒美に俺がお茶に誘ってあげるよ」
「今日は予定があるの。ごめんなさい」
紗奈はバッサリと即答した。予定が無かったとしても、悠以外の異性と二人きりでお茶をする。なんて浮気みたいな事はしたくない。悠を傷つけようとする桐斗の事は正直嫌いだし、どうにか断っていたはずだ。
「桐斗くん、かわいそー……」
「せっかく誘ってくれてるのに。冷たくない?」
やっぱりヒソヒソと妬み嫌味を言われ、紗奈は更に落ち込んでしまう。
(悠くんに酷いことする人は嫌いなんだもん……。ヒソヒソ悪口言う人の方が、冷たいんだから……)
今日は悠がいないから、落ち込み度合いもかなり酷かった。いつもよりも悲しくて、涙が出そうになる程だ。
「こんなチャンスはそうそうなねいよ? そろそろ素直になったらどうだい?」
「ごめんなさい。行きたくないわ」
紗奈はそう言うと、一度席を立ち上がって千恵美達の元へ避難する。二人は暖かく迎えてくれるので、安心した。
「頼ってごめんね」
「いつでもおいでよ」
「そうだよ! 友達じゃん?」
「…うん!」
そう言って貰えて、やっと少しだけ元気が出る。
。。。
授業と授業の間にある休憩時間でお手洗いに立った時、紗奈はふと悠のクラスが気になって、寂しげに見つめた。
たった一日いないだけなのに、こんなにも寂しいだなんて思わなかった。
紗奈と悠は、会えない土日もチャットでの会話だったり、電話をしている。しかし、今日は熱に侵されている悠にメッセージを送って無理をさせたくない。悠なら絶対に、メッセージに気づいたら返してくれるに決まっている。紗奈はそう確信していた。
しょんぼりと肩を落としていると、同じくお手洗いに立っていたらしい和也に声をかけられる。
「何してんの」
「和也くん……」
「隣のクラス?
約束通り、悠の事はみんなの前では内緒にしてくれているようだ。紗奈達も、もちろん煙草の事は誰にも話していない。本当は先生に報告するのが正解なのだろうが、約束だし、関係をバラされるのも怖いし、和也がそんなに悪い人にも見えなかった。
「ううん。今日はお休みなの」
そう言うと、和也は納得したように一つ頷いた。
「昨日も体調が悪そうだったもんな」
「え?」
それを聞いた紗奈が驚いた顔をしているので、和也は逆に不思議そうに眉を寄せた。
「あれ? 知らないのか? 放課後、ずっと机に突っ伏していたぞ」
「知らない……。そうなの?」
「ああ……あ?」
紗奈が傷ついた顔をするものだから、和也は流石にビクリと肩を揺らす。なんて声をかけていいのか、分からなかった。
「え、あの……」
(私、悠くんの彼女なのに、なんにも気づかなかった……。帰り道、沢山話しを聞いてくれて、手を繋いで楽しそうに笑ってくれたのに……。あの時の悠くん、無理してたの?)
「ごめん」
紗奈が泣きそうに見えたので、和也は慌てて謝った。
「ううん、教えてくれてありがとう……」
紗奈はそう言うと、スっと教室に入る。置いていかれた和也は、周りにいた男子達に「何を話していたんだ?」としつこく聞かれる羽目になったので、苛立った。昼休みには限界を迎え、五、六限目は、和也は授業にはいなかったらしい。
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