第11話 祖父の心配

 紗奈と菖蒲は同じマンションに住んでいるので、当然帰宅も一緒だ。


 二人がエントランスに着くと、紗奈がよく知る人物と、たまたま会うことが出来た。


 紗奈の祖父だ。同じマンションに住んでいるので、極たまに会える。神奈川県警察の偉い人で忙しいので、本当にたまになのだが、今日はそのたまに。の日のようだった。


「おじいちゃん!」

「こんにちは」

「ああ。紗奈。菖蒲くんとは久しぶりだね。随分逞しくなった」


 小さい頃はよく遊んでもらったので、菖蒲も紗奈の祖父、浜野銀次はまのぎんじのことが好きだった。逞しいと褒められ、照れくさそうに笑っている。


「お仕事の帰り?」

「ああ。今日は早く帰れて良かったよ」


 「二人に会えたから」と優しい表情を見せてくれたので、紗奈も嬉しそうにはにかんだ。


「ところで、そのプレゼントはどうしたんだい?」


 ほとんど手ぶらで来ていた紗奈は、もらったプレゼントをそのまま両手に抱えて持っていた。それを指摘され、紗奈はぽっと頬を赤くする。


「貰ったの」

「おや? もしやいい人かい? 紗奈はまだ中学生じゃなかったかなあ…」


 軽く動揺してしまったようだ。紗奈の母、由美ゆみの時は初めての恋人が高校生の時だったし、自分の事のように恋模様を楽しんだものなのだが、紗奈はまだ中学生。心配や寂しさの方が勝ってしまう。


「いい人って……。まだ知り合ったばかりだし、ちょっと気になってるだけって言うか…片想いだし…早いよおっ……」


 くねくねと恥ずかしそうに体を揺らしながら、紗奈は妄想の世界に入っていく。


 それを隣で見ていた菖蒲は、微妙な顔をしていた。


「どんな子?」

「無愛想な奴ですよ」

「あら。でも優しいのよ。こないだもここまで送ってくれたし」

「男なら当然だろ」


 菖蒲だって、付き合っていた頃は彼女をいつも家の近くまで送っていったものだ。そう思ったので、自然とそんな言葉が出る。


「それに……」


 そこまで言って、紗奈は口を止めた。「かっこいい」ということは、まだ誰にも知られたくない。秘密にしたかったのだ。


 それに、彼は目立つのを嫌っていたから、イケメンだなんて目立つ要素を暴露される事は、絶対に嫌がるだろう。


「意外と頼りになるの」


 唇を尖らせてそう言うと、菖蒲はやっぱり面白くなさそうな表情で頬をかいた。


「やっぱり、ちょっと苦手なんだよな」

「彼のいいところはこれから知っていくだもん!」

「はいはい」

「そうだ。悠くんの志望校ってどこなんだろう……。菖蒲くん、知ってる?」

「知らねえよ。仲良くもないし」

「えー…チャットのIDは?」

「知らない」

「うう…。私が話しかけるの、きっと嫌がるよね……」


 そう言ってしゅんと肩を落としたので、祖父からの印象もあまり良くはなかった。眉を寄せて菖蒲を見ると、菖蒲と目が合い、彼は小さなため息をついた。


「そんな奴、やめとけば?」

「嫌よ。お父さん以外では初恋なんだもん」


 紗奈の初恋は父親だった。今も正直、父はかっこいいので仕方がなかったのだ。と納得している。


 それ以外で初めて紗奈が好きになったと言える相手が悠だった。だから、簡単には諦められない。


「うーん……。話しかけることを嫌がるんだろう? あまりいい子ではなさそうだが……?」

「目立つのが嫌なんだって。私が話しかけた時にからかわれたから…きっとそれで嫌がってるのよ」

「紗奈は可愛らしいからなあ」


 菖蒲も祖父も複雑そうだが、紗奈があんまり悩むので応援してあげよう。と心の中でだけ、誓った。




※レビューやフォローをしてくださった皆様、いつも応援ボタンを押してくださる皆様、とっても嬉しいです✩.*˚ありがとうございます!

甘々な展開まではもう少々かかってしまいますが、これからもよろしくお願い致しますm(_ _)m

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