第4話 幼なじみ
今日は、あれからずっと紗奈の周りが騒がしかった。
「北川。お前嘘つきだな」
「何が?」
教室であおいと雑談していると、クラスの男子がいきなりそんなことを言ってきた。運動が得意な生徒で、よくクラスの男子達の中心で話しているタイプの子だった。
最近彼と会話をしたような記憶もないし、この人に何かしたっけ? と紗奈は怪訝な顔をする。
「面食いだって言ってたじゃん? なんであんな奴なの?」
クラスメイトの言葉に、紗奈は思い切り顔を顰めた。あの羊のぬいぐるみキーホルダーの男子の話だった。実を言うと、朝に教室に帰って来た時も別の生徒に散々からかわれた。
またその話か。と紗奈はつい呆れてしまう。
「昨日が初対面だし、あなたの思うような関係じゃないんだけど。そもそも、人を悪く言う人はいくらイケメンだって無理だもん!」
「あは。同感ー…。心根が腐ってる人ほど自分に自信あったりするのよね。ばかみたーい」
紗奈とあおいがそう言って男子生徒達をたじろがせていると、別のクラスから一人の男子生徒がやってきて、気まずそうに紗奈に声をかける。
「あー…紗奈?」
「
その間に、紗奈とあおいに怯んだ男子生徒はすごすごと退散して行った。
「現国の教科書、貸してほしいんだけど…」
「いいよー」
二組に所属している
彼は二年生の頃から付き合っていた三組の女子と先週別れたらしく、いつもはもう少し元気な菖蒲が、今は控えめな様子で笑っている。
「そうだ。菖蒲くん。帰りにほしのねこに行かない? 久しぶりに奢ってあげるよ」
昔はよく、奢り奢られを繰り返していた。もちろん、お小遣いの出せる範囲でだ。理由は父親同士がよくそうしていたから。
小テストの点数でいつも競っていた。と家族ぐるみでご飯を食べに出かけると、いつもその話を聞かされていた。
だから、二人も昔はたまにそういう勝負事をしていたのだが、菖蒲に恋人が出来てからは全くしなくなった。
その『ほしのねこ』というのも、小さな頃からよく親に連れて行ってもらったカフェレストランの名前。小さな個人経営の店だが、おしゃれで料理の味が良く、更に値段もそこまで高くはない。紗奈達にとってもお気に入りで、馴染みの店だ。
「でも…」
菖蒲の瞳が少し揺れたように見えた。紗奈はそれに対してムッと眉を寄せる。
昔は遠慮なんかしなかったのに。たった一年ぽっち離れていたくらいで、随分と他人行儀になってしまったように感じた。
「いいから! あなたはうるさいくらいが丁度いいんだから、嬉しそうに奢られなさいよ」
パッと軽く背を叩かれれば、菖蒲はやっと眉根を下げて、少しだけ笑う。紗奈が励まそうとしているのを感じて、胸が暖かくなった。
「ありがとな」
「ふふ。私に何かあった時は存分に頼ってあげるんだからっ」
「もちろん。なんでも言えよ!」
本調子では無いものの、いつもの調子に戻ってきた。菖蒲はぐっと親指を前に突き出し、にかっと歯を見せて笑った。
「あおいちゃんは今日も塾?」
「そうなのー。また今度、ご一緒させてね」
それを聞いて紗奈は残念そうに肩を落とし、今度は紗奈の方が菖蒲に慰められてしまうのだった。
※この物語はフィクションです※
子ども同士でのお金のやり取りはトラブルの元になりますので、やめましょう。
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