モテ男はいつだって有利ってコト

紺狐

第1話

 今日は彼女とデート、水族館に来ている。今月に入って三回目。いい加減鬱陶しい。魚なんか見て何が面白いのか俺には良くわからないが、女とかいう生き物は意外と魚好きだ。魚なんか刺身で食えば十分だと思う。

 意味が分からない。

 そんなんだったら由彩ゆいと一緒に遊園地にでも行けば良かった。俺と部活が一緒なので今日は休みだ。まぁこの目の前の女も同じ部活なわけだが。

 いつもみたいにどうでもいい愚痴ばっかりわめいてる。

 誰々がウザいだの、あそこのタピオカうまいだの。はっきり言ってしつこいだけだし、そのマスクで隠れた口を縫い付けてほしい。

 いつだったか将来水族館で働きたいとか言っていた。

 クラゲが可愛いとか、いつ見てもイルカはすごいとか、そんなどうでもいい話で時間が過ぎる。

 するとマンボウのいる水槽前まで来ると突然俺の顔を見て、

学斗がくと、話があるの」

「どうした?」

 後でタピオカ奢れとでも言うのかなと思っていると、バッグからスマホを取り出した。

「これなに?」

 一本の動画が再生される。

 そこには先日、俺が由彩と後輩数人と浮気デートしたときのものだ。

 場所はまさにこの水槽の前。

 周りには各々可愛いメイクをした後輩達。さしずめ花園のようで、とても華やかな光景だった。

「せんぱぁ~い、由彩にもポンポンしてくださいよ。よく冴木さえき先輩にやってるじゃないですかー」

「これでいいか?」

 そこで後輩の頭をポンポンした。

 頭から優しい植物の香りがした。

「先輩ずるいです! 私にも」

「あ、穂乃花ほのかちゃんずるい。私にも」

 ポンポンするついでに、首筋にキス。こんなのも撮られていたのか。

「「「――!」」」

 黄色い叫び声があちこちからあがる。

「いいんですか? 冴木先輩嫉妬しちゃいますよ?」

「いいよ、あんな女。お前達の方が百倍かわいいし」

 今度はささやかな歓声が上がった。

「先輩カッコいい! 今晩も家にお邪魔していいですか?」

 親なんか共働きでいつもいないので、まったくかまわなかった。

「いつでも来なよ。ゲームくらいしかないけど」

「先輩がいれば十分だよねー?」

 その顔がとても魅惑的だと気づく。

「それな」

「ほらお前ら早く行こうぜー。お前らとの時間が一番楽しいよ」

 そこで動画が止められる。

「よく言うね、後輩で遊んで楽しい? 随分遊んだみたいだし」

 よくこいつここまで普通の顔してたな、怖すぎ。

「浮気で乗り替えてきた男は恐ろしいって言うけどさ、まさしくその通りだった」

 視線が完全に汚物に向ける目だった。

「別に普通にゲームとかしてただけだよ」

「へぇ、ゲームしたあとに三日間も学校にこないってどんなゲームしたの?」

「……ホラーゲームだよ。ほら、最近のホラーゲームって怖いじゃん」

 我ながら見苦しい言い訳だ。

「ふざけんなよ。私を口説いたのも、お前の家に泊まった日だったよね。お前の彼女だった先輩に浮気中にな!」

 明らかにヤバい雰囲気を纏ってる。

「クソが」                

 そこで頭突きを繰り出してきた。感覚的に右に身体を避ける。

 その時にあいつの右手にアイスピックが見えた。

「死ね!」

 右手を俺に向けて刺してくる。 

 もちろんやられる訳にはいかない。

 突き出してきた右手を掴み、手首を捻ってアイスピックを床に落とさせた。痛みに苦しむ顔が見える。

 気がつくと回りには沢山の人だかりができている。アイスピックをさりげなくバックに入れて、あいつを置いて水族館から逃げ出した。

 

 

 外には茜色の空が出ている。十月とはいえ、随分冷え込んだ夕方だった。指先が寒い。

 スマホがバイブする。

『先輩終わりました?』

 由彩からだ。

『あぁ、さすがにアイスピック出してきた時には焦った』

『そんなもの持ってくるなんて、あの女イカれてますね』

 後輩にもイカれた女扱いされるなんて、可哀相なやつ。

『もう皆集まってますよー』

恵子けいこ三枝さなえきた?』

『はいー。あの二人はお嬢様すぎるんですよ。三日間は引きずりすぎなんですよね』

 ちょっと派手にやったとは思っていたが、三日も来ない程じゃないと思う。

『ま、その二人を使って先輩が別れるのを手伝わせたんですけどね。冴木先輩気づいてなかったでしょう?』

『あぁ』

 恵子と三枝が俺に散々泣かされたという体をとって、あの二人が撮っていた浮気デート動画を、こっそり冴木の手に渡るように仕組んだのだった。

『先輩、後で恵子達にご褒美あげといてくださいね』

 ご褒美ねぇ……。なにあげようかと考えながら言葉を続ける。

『わかった、先にゲームしてて』

『はーい、早く来てくださいよ』

 電話が切れる。

 自分はいつもこうだ。別に特に意識している訳でもない。

 ただなんとなく、女子が喜びそうなことが分かる。

 それだけだった。

 自分の両親は忙しすぎてほとんど家にいない。だから自分のやっていることは、暇潰し。

 深い意味もなく、ただ女を取り替えての暇潰し。こうして考えると最低な男だ。

 しかし今更他にすることも思い付かず、来年には受験生。

 まるで、俺の心を嘲笑うかのようにカラスが鳴いていた。

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モテ男はいつだって有利ってコト 紺狐 @kobinata_kon

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