第4話・イチャイチャするにもほどがある……姫と王子は夫婦でも混浴禁止!攻めてきた大帝の軍隊

 アンチモンとテ・ルルが交代で、辰砂とセシウムの世話をしながら、同時に姫と王子の護衛と子作り阻止を宮殿でするようになってから、数日が経過した。


 アンチモンとテ・ルルは導師と仙女から、あらかじめ姫と王子の子作り知識のレベルを聞かされていた。


 辰砂姫の性知識レベルは。

「赤ちゃんが、どうやって誕生するのかですって? もちろん、知っていますわ……うふっなは『赤ちゃんは畑のキャベツの中から誕生するのですよね』……女の赤ちゃんは光る竹の中から生まれますわ……岩から生まれるのは、おサルさんでしたっけ?」


 セシウム王子の性知識レベルも。

「子供がどこから来るのかですか……もちろん知っていますよ『子供はコウノトリが家に運んできます』……男の子は川を流れてくる桃から生まれると聞いたコトがあります……海の白い泡の中からは、成人した裸の女神が生まれます、花とか果実の中からも子供は生まれてきます」

 二人の子作り知識は、ほぼ無知のレベルだった。


 その日は、テ・ルルが姫と王子がイチャイチャしている部屋で室内の片付けをしていた。

 長いソファーイスに並んで座って体を寄せて、朝も夜も愛の言葉を囁き合って。

 連続してキスばかりしている二人の姿に、部屋の掃除をしながらテ・ルルは内心。


(よくもまぁ、呪いの力とは言え。あれだけイチャイチャして、一日中くっついていられるものデス……近くで見せつけられている方が恥ずかしくなりますデス)


 茶器棚の拭き掃除を少し高い台に乗ってしていたテ・ルルは、横目でチラッと二人を見て立っていた台から驚愕して転げ落ちそうになる。

 姫と王子の互いの体を触って愛撫している手が、徐々に腰から下へと移動をはじめていた。

 慌てて姫と王子に忠告するテ・ルル。

「ダメデス! 触るのは腰までデス、お尻は触ったらダメデス!」

「どうしてですか?」

「どうしてもデス」

「それなら、お尻をとばして太モモとかは?」

「もっと、ダメデス! 触るなら膝から下を軽くデス!」


 姫と王子がなにかの弾みで、子作りのヒントに気づいたら。

 世界が大変なコトになる危機を阻止するために、お目付け役のテ・ルルとアンチモンには気が休まる時がなかった。

 テ・ルルが、さらに姫と王子に念を押す。

「今までは、一緒にお風呂に入っていた混浴も、これからはダメデス……夫婦でも宮殿の男湯と女湯に別々に入浴してください」


「どうしてですか? 石鹸セッケンが、お風呂場に無かったら?」

「どうしてもデス……石鹸が欲しかったら、女湯と男湯を隔てるへいを越えて必要なモノを放り投げてくださいデス」


 子作り監視を続けて、気疲れしているテ・ルルに部屋のドアを開けてグラサン顔は覗かせたアンチモンのおっちゃんがチョイチョイとテ・ルルを手招きして。テ・ルルは、部屋から通路に出た。

 宮殿の通路に立っているアンチモンは、唐草模様の風呂敷をマント装着して戦闘体勢に入っている。

 厳しい表情に変わったテ・ルルは、すぐに状況の変化に気づいた。

 風に乗って宮殿に流れ込んでくる、土煙の匂い。足下から伝わってくる進撃馬群の振動。

 背負っていた長銃を構えて、テ・ルルがアンチモンに訊ねる。

「カエン・ダケ大帝のみかど軍デスか?」

「そうだ、国境を越えて、近くまで迫っている」

「帝軍の兵人数は?」

「騎馬軍を含めて、約五万五千人」

「二人で倒すには、相当な人数デスね」


 二人が通路で会話をしていると、辰砂とセシウムもドアを開けてヒョイと顔を覗かせた。

 西洋剣を手にした、戦姫剣姫の辰砂姫が言った。

「うふっ……もしかして、帝の野郎の軍が中ノ小国に攻め込んできましたか? それは、胸キュンな展開です」

 可憐な笑顔を浮かべる辰砂姫の表情が、戦姫モードに変わり言葉遣いも、微妙に荒々しい口調混じりに変化する。

「オレたちの愛を邪魔するヤツは、ぶっ潰すのみ……ですわ、特にカエン・ダケ大帝の野郎は、なんとなく気に入らねぇ……ですわ、うふっ」

 本質の戦姫剣姫モードに変わった辰砂姫は、口調が『オレ系女子』になる。


 和装のセシウム王子も、口調が少し悪い悪王子モードへと移行する。

「愛する姫を傷つけようとする者は許せねぇ……わたし、オレが地獄の業火で焼いてやる……覚悟してください帝の軍、ワクワクです」


 テ・ルルとアンチモンは、呪いをかけられていても。姫と王子の本質は完全に変えるコトはできないと悟った。

 それは、どんなに野生動物を飼い慣らしても、動物が生きていくために得た本能を抑えて消すコトはできないように。


 転生者カエン・ダケに、何回も前世で愛を引き裂かれてきた結果。

 戦姫剣姫の本質と悪王子の本質は、簡単に愛を引き裂かれないように進化した本質だった。


 テ・ルルは。

(前前前世の記憶は失っていても、姫と王子には自分たちの恋仲を引き裂かれ続けたコトへの因縁は本能に残っているデス)

 そう思った。


 アンチモンのおっちゃんが、苦笑しながら呟く。

「こりゃ、安全な場所に避難をして大人しくしていてくれ……と、言ってもムリなようだな。四人で帝の軍の相手をするか」


  ◇◇◇◇◇◇


 宮殿の外に出た四人は、辰砂姫とセシウム王子を別れさせるために小国に進軍してきた帝の軍を眺めた。

 炎のような形をした昇り旗群が風に揺れ、田畑を踏み荒らして大帝の命令を受けて、進撃してくる兵士たちの虚勢の声が響き渡る。


「小心者の大帝から命令されて、やりたくもない姫と王子の仲を引き裂くためだけの、進軍をさせられている帝の軍も惨めデス」

「それでも、このまま小国への進軍を見過ごすことはできない……それなりの被害も帝の軍は、覚悟してもらわないとな。テ・ルルとオレは姫と王子から離れて戦います」


 鞘から西洋剣を引き抜いた辰砂姫の顔つきが、精悍な顔つきに変わり姫は楽しそうに、舌なめずりをする。

「愛するセシウム王子は、オレが守る……向かってくるヤツは一人残らず、山の彼方までぶっ飛ばす!」


 セシウム王子の顔つきも、薄笑いを浮かべた顔つきに変わる。

「素人の兵軍相手に、転生者の魂を召喚して利用するまでもない……オレの太陽神の力だけで十分だ。わたしは愛する辰砂姫のために戦う……灼熱の光りで燃え尽きやがれ」


 戦闘前に戦姫と悪王子は、軽くキスをして愛する気持ちを高揚させた。

「んッ……セシウム王子、大好きです。心から愛しています……んッんッ、どうかムリはなさらないでください……んんんッ」

「んッ……わたしも深く愛しています辰砂姫……姫を少しでも傷つける者は許せません、殺します……んッんッ、愛しています姫」

 辰砂とセシウムは、愛すれば愛するほど強くなる。


 少し離れた位置で、戦い前に抱き合って、口づけキスをしながらイチャイチャラブラブしている姫と王子を眺めるテ・ルルとアンチモンは。

(この二人、かなりヤバい)

 そう思った。


 抱擁を解除した辰砂と、セシウムが進撃してくる、帝の軍と向き合い戦闘体勢に移行する。


 辰砂姫の周囲に闇の霧のようなモノが流れ漂い、姫の背中から穴が空いた闇属性コウモリの翼が現れる


 セシウム王子の姿が、黄金の日本甲冑を装着した光り属性の太陽神の姿へと変わる。

 兜には金色に輝く『熱愛』の文字の兜飾りが付いていた。


 闇の属性と、光りの属性──本来なら決して接っするコトがない対極の属性。

 愛の進化の奇跡……二人の恋愛が異世界を変える。

「わくわく」

「きゅん」

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