後日談ですから

それ以来、彼女とは連絡を取っていなかった。交換した連絡先も全て削除した。これで終わったはずなのだが。なぜかオレの目の前に彼女が立っていた。

「あの〜、何で僕の家を知ってらっしゃるのですか?」

そう。ここはオレのアパートの前だ。彼女が知るはずはない。一気に思考を巡らせるが思い当たる節がない。彼女は微笑んだ。めちゃくちゃ怖い。

「そのカバンの中」

彼女はオレのカバンを指差す。何だ?何だよ?

「変なものが入ってたりしないですか?」

オレはカバンの中を慌てて探す。カバンの奥底の方に何かが入っていた。取り出すと薄い直方体形状の何かだった。

「GPS?」

「正解です」

いやいや。なんでやねん。オレは呆然としていた。すると彼女はツカツカとこちらに歩み寄ってきた。オレは身構える。彼女はゆっくりとした動作でオレの手からGPSを奪って、自分のカバンの中にしまった。

「あの〜、こういうことはあまり良くないんじゃないですかね?」

「そうですね」

「犯罪じゃないですかね?」

「そのとおりです」

「訴えてもいいですか?」

「やってみればいいんじゃないですか?たぶんあなたが有利ですよ」

彼女は怪しく微笑みながら言った。

「証拠があればの話ですが」

なるほどね。だから回収したわけですか。

「女スパイか何かですか?」

声に出して言ってしまった。彼女はフフッと笑った。

「やっぱり保険金殺人?」

「まさか、違いますよ」

「じゃあ何でしょうか?」

「好きになりました」

「え?」

何を言っているのだ?この女は。

「あなたが好きになりました。私はあなたと結婚します」

「いやいや、それはありがとうございますなんですが、、、オレの方にも都合がありまして」

「セックスがしたいんでしょ?させてあげますよ」

「え?」

「聞いてましたよ。あなたの話。あなたって普段から一人の時でも思ったことを声に出してしまうんですね」

あれ?あれ?ということは、

「盗聴機能付き?」

「正解です」

なぜだろう。汗が止まらない。オレの身体がアラートを出している。オレを構成するものの全てが逃走を推奨している。逃げよう。従うべきだ。オレが逃げようと後ろを振り返った瞬間。その時だ。彼女がオレに抱きついた。甘ったるい髪の香り。柔らかな感触がオレに触れる。彼女の双丘がオレの胸に押し当てられる。俺の感覚の全てがそこに集中した。仕方ない。御無沙汰だったんだもの。

「ごめんなさい。こんなことして。でも好きなんです。本当に」

こんな声を出せたのか?彼女のか細く甘ったるい声がオレの耳を撫でる。簡単なものだ。逃走を推奨していた身体が一転、生命への賛歌を歌っている。オレという意思はもはや関係ない。オレの中で湧き上がって止まらないものがあった。全会一致の判決だ。やむを得ない。

オレは彼女の手を引き自分の部屋に連れて行った。彼女を部屋の中に引き入れ、ドアを閉めて、彼女をベッドに押し倒した。

その後は割愛する。もちろん避妊はした。その後どうなったか?これを書いているということは、まだ殺されてはいないということだ。


終わり

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