ひなさまこさま

バルバルさん

やまかわこえて

 いきなりですが、皆さんの地域には、ひな祭りの時期に歌われるわらべうたってありますか?


 多分、ほとんどの地域で歌われていますよね。少なくとも、僕の故郷では子供たちは皆この歌をひな祭りの時期には歌います。



ひなさまこさま

やまかわこえて

またらいねんおいで



 このフレーズは、子供の頃に地域の家々を回って歌ったひな祭りのわらべうたの一節です。


 僕の故郷の地域では、ひな祭りの時期が他とは異なるのだけど、その頃になるとこのフレーズを歌って、家々を回ってお菓子をもらうという風習があります。


 なので、この頃になると家にはお菓子の入った大きな段ボールが置かれていて、ひな祭りにそのお菓子を配って、行事の後はしばらく余ったお菓子がおやつになりました。


 実は僕は中学生まで参加していて、ちょっと恥ずかしい思いをしたのを今でも覚えていますね。


 父がそういう行事を推奨する人だったので、参加させられたのだけど……やはり、こういう行事に参加するなら小学生までだろうと思います。


 まあ、僕が恥ずかしかった話しは置いておいて、僕の故郷には山も川もあるので、この歌のフレーズにはそんなに違和感はありませんでした。


 確か、ひな祭りとは川に人形を流し、厄を持って行ってもらう行事が始まりだったかな?


 という程度の知識で、子供だった頃の僕は正直、女の子の行事という事で詳しくは知りませんでした。まあ、妹が二人いるので、家にはひな人形を飾ってはいましたけど。


 ただ、なんで川に流して厄を持って行ってもらうのに、なぜまた来年も来てねと歌う必要があるのだろうか。とは少し疑問に思っていました。


 というか、よく考えてみれば何故このわらべうたを歌い、お菓子をもらうという風習があるのでしょうか。


 風習とは何かしら理由があるものです。という事は、このお菓子をもらうという行事にも、歌を歌うのにも理由があるはずです。


 という事で、中学の頃に、この事について父に聞いてみたことがあります。



 これから書く話はあくまで、僕が父から聞いた話であり、それもまた父の祖父から聞いた話らしいというのを前提に、真偽のほどは置いておいて、書かせていただきます。


 この地域では雛流しの時期になると、人を流す風習があったとか、なかったとか。


 障がいを持って生まれてしまった子、特に女の子。育っても力は役に立たず、子供もなせぬその存在を、小さな船に乗せて流すという子供流しの風習。


 ですが、せめてもの情けか何か。親はその子を着飾らせて、船には沢山の当時貴重な甘味のするものを乗せたといいます。



 雛様。子様。


子供は一定の期間は神の子ともいう。だから様が付く。



 山川越えて。


 山も川も超えて、どこかに流してしまうけど。



 また来年おいで


 また自分の所に授かり来てくれるのならおいで。その時は健康であってね。



 そんな流れがあった……と、父は父の祖父から聞かされたと言われました。


 それが現代に近づくにつれて、子供流しの風習は無くなり、子供にお菓子をあげる風習だけ残った……らしいです。


 まあ、これも父の祖父からのまた聞きですが。



 ちなみに、僕の実家は川に近いのですが、実家は昔の大きな台風のせいで移転していて、元々あった場所はもっと川に近かったといいます。


 もしかしたら、僕の父の祖父。あるいはそのもっと前の時代に、雛流し、子供流しがあったのかもしれません。


 そして、それを手引きしていたのは。僕の先祖かも知れない……。


 まあ、そこまで行くと空想ですけど。話が本当なら、ありえない話ではないです。



 来年も、きっと故郷ではひなさまこさまの歌が僕の故郷に響くことでしょう。


 そしてきっと、先祖の時代にも響いていたのでしょうか。


 その時、誰に向けて歌われたかは知らないけどね。

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