フィフ・ヴァ・ドワール -3-

 「断罪を望む」


 「そうか、つまらん奴だ」


 悪魔ヴァーレは言う。つまらなくても良い。命を失い、彼女を見れなくなるぐらいなら……身体の欠損も感情の喪失も受け入れよう。


 「魂は、癪だけど持っていけ」


 悪魔は、そう言うと空白の空間から魂と言われる"何か"を取り出し俺へと投げた。


 「なんだ、まだ魔界には運んでいなかったのですね」

 「当たり前だ、魂がそれを拒んだら私でも運び出すのは困難だからな。良かったな、人間。貴様の恋人は、お前のことを待っていたぞ」


 天使と悪魔の会話。何を言っているのか、分からなかった。

 魔界の禁忌とは、魔界にある魂を現界に戻す行為なのではないのか?では、なぜ魂が魔界にない?


 「なぜ、ですか?魂は魔界にあるのでは」

 「人間……。魔界に魂があったなら、そもそも蘇生は無理だ。そして、貴様の恋人は善性の塊だった。天界に行くことも出来たが、それでもここに残った」

 「どういうことですか?」


 なぜ、彼女はここに?天界でも魔界でもないここで、待っていくれたんだ。


 「彼女は貴様と一緒に天界に行くつもりだった。貴様も、禁忌に手を出さなければ天界に行けただろう。どうせ、感情が消えるんだ。怒りは次第に湧かなくなる。つまりだな、貴様は無駄なことをした。彼女を蘇生したいなら、嘘でも贖罪を選べばよかった。そうすれば、罰を受けずに済んだ。彼女の善性を無駄にして、貴様自身の善性を無駄にした結果――感情のない貴様と、そんな貴様を愛す彼女の完成だ!」


 ――哀れ!天使に唆された人間


 悪魔ヴァーレは、あざ笑う。そうか、そう言うことだったのか。

 怒りの感情が薄まっていくの感じる。あぁ、記憶が消えないのなら――

 俺が彼女を愛する気持ちがなくても、俺が彼女を愛した記憶は残るんだろう?


 頼むよ俺。


 彼女を愛し続けてくれ――



 『禁忌を侵すといい』



 俺の意識は、天使と悪魔の声で途切れた


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る