フィフ・ヴァ・ドワール -2-

 断罪、贖罪と彼女らは言う。


 「選ぶ……?」


 俺は、その一言を絞り出した。


 「貴方の罪」

 「貴様の罪」


 『それを償うのです』


 罪? 俺が何をしたと――


 頭でそれを否定しようとするが、悲しいことに心当たりが多すぎた。罪か……人が作り出したただの造物。法律など信じたことはなかった。

 そうか、罪とは神が作ったものだったというのか。


 「俺が、どんな罪を犯したというのですか」


 仮にも天使、悪魔を名乗る存在だ。心を読まれているかもしれない。だが、それだけで私はこの人生を諦めたくはない。

 まだ、罪を償うにはやり残したことが多すぎる。


 弁解の余地があろうと、なかろうと。今できることは、時間を稼ぎその罪を軽くすること。


 「貴様、自ら犯した罪を認識していないのか?」


 悪魔ヴァーレの言葉。心は読まれていない?それとも、弄んでるのか?


 「俺は、神だとかの悪と善の区別を知らない。何が罪なのかを知らないんだ」


 言い訳だと知っているが、このまま何もせずに死ぬわけにはいかない。その一心で、俺はひたすらに言葉を重ねる。


 「マーラ、まずはお前から教えてやれ」

 

 「……仕方ないですね。フィフ貴方は強欲を得ようとした。それが"天界の罪"です」


 「強欲を得た」だと?

 何かを欲張ることが罪だとでもいうのか?彼女を助けようとすることが罪だと?


 「貴方は、禁忌を犯した。人であるのにも関わらず"命"を司ろうとした。強欲でないのなら、何だと言うのですか?」


 命を司る?

 蘇生が、禁忌だと?ならば、あの書物に書かれていたそれは……、まさか今まで蘇生に成功した者は――全員が罪を償ったのか?


 「フィフよ、そう警戒するでない。あくまでそれは、"天界の罪"だ」

 

 「天界の罪……?では、魔界の罪もあると?」

 

 「人間にしては、冷静だな。その通りだ。貴様は、命を……いや魂を現界へと戻そうとした。それが、"魔界の罪"だ。考えてみろ、我ら悪魔の根源でもある魂を奪おうとしたのだ。禁忌以外の何物でもない」


 ハハハ……どちらも命を人間である俺が、扱おうとしたから罪になるのか?

 人間だから、なのか?


 大切な人の命を、救おうとしたことが禁忌?罪だと?――やはり世界のことわりは、傲慢な存在の元で作られたのだろうか。

 それを望んで、何がいけないのだ。


 「貴方の両眼、両足、感情を失うことで禁忌を犯すことを許しましょう」

 

 天使は言う、それが断罪だと。禁忌を犯すなら、それだけ失うことを認めるのだと。


 「貴様の魂、金品を全て我らに授けることで禁忌を犯すことを許可しよう」


 悪魔は言う、それが贖罪だと。禁忌を犯すなら、自らが持つものを投げ捨て善行を積めと。


 『さて、人間』


 「断罪を望むか?」

 「それとも贖罪を望むか?」

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