第46話

(韓国......水都さんが......韓国に転勤)

 泰雅との通話を切った真唯だが、どんな別れの挨拶をしたのかも記憶にないくらいに、彼女の頭の中は『水都さんが韓国に行ってしまう』と『こんな時に自分の気持ちに気づくなんて』という二つの衝撃でいっぱいだった。

 行く時期はゴールデンウイーク後になるという。


 その数日後。今度は梨乃から連絡が来た。

【真唯はゴールデンウイークっていつお休みとれる?】

「カレンダー通りだけど」

【じゃあ五月の三日から六日までこっちに帰ってこれるのね?】

「うん」

 真唯自身、お休みがとれるとわかった時に実家に帰ろうとは思っていたのでちょうど梨乃に伝えられてよかったと思った。

【水都くんが韓国に転勤するでしょ?だからその前に、笹倉くんと私と真唯と水都くんの四人で居酒屋で飲んだり食べたりしようかなって】

「いいわね。私も会いたい」


 もう会えないと思っていた泰雅に会える事になって、真唯は胸がドキドキ高鳴った。


✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠



 五月三日午後。真唯は大きなバッグを手に実家に向かうため新幹線に飛び乗った。早めにあちらに着いて実家に向かい、梨乃と共に涼祐、泰雅と落ち合う手はずになっている。


 真唯が座った新幹線の座席は二人がけだ。窓側の席にはすでに乗客がおり、女性だった。その女性が真唯を見るなり「あら、あなた」と口にした。真唯は二人がけだし女性が言う「あなた」とは自分だろうなと思ったので彼女に視線を向けた。

 しかし、真唯には女性の顔に見覚えがなかった。それを表情で読み取ったのだろう、女性は

「水都泰雅くんと同じ会社の者です、と言えば思い出してもらえるかしら?あなたには二度会ってますしね」と不機嫌そうに言ってきた。そこでやっと真唯も「あ......!」と自然に声に出ていた。


(そうだ。一度目の時も二度目の時も真唯をジッと見ていた、あの女性だ)


「こ、こんにちは......」

「やっと思い出してくれたようですね」

 トゲの少々混じった言い方に真唯はすみませんと返した。

「私はあなたの事をすぐに思い出しましたのに。なんといっても、あなたはライバルですから」

「ライバル?」

 とりあえず、真唯は自分が立ち尽くしたままで女性と話をしているのに気づいてあわてて座った。それから乗る前に売店で買ったアメを取り出すと女性に「どうぞ」と差し出した。

「......じゃ、遠慮なく。ありがとう」と言ってアメを受け取った女性はそれを口に放り込んだ。真唯もそれを見てアメを口に入れた。

「ライバルって何のですか?」

「決まってるじゃない。水都くんの事よ。彼、あなたに片想いしてるんですものね」

「......」

「そういえば名前を言ってなかったわね。木下由真よ」

「坪倉真唯です」

「ああ、それで水都くんが真唯ちゃん、真唯ちゃんって呼んでるワケね」

「あ...そのようですね」

 女性改め、由真は会社のお祭りで泰雅に告白した時の事を思い出した。結果、フラレたのだが。

 ちょっとだけ、由真の中に意地悪な考えが浮かんだ。

「坪倉さん。あなた、水都くんの事、実際はどう思ってるの?恋愛として好きなの?それとも......ただの年上のお友だちだと思ってるの?」

「え?」

「もしも後者なら......水都くんに近づくのをやめていただきたいの。彼をあなたという存在から解放させてあげて」

「......」


 東京へと向かう新幹線の中で突然、由真から突きつけられた問い。


「私は......」


はたして、真唯の答えは......?




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