第42話
真唯が病院に駆けつけてから二時間後に泰雅も到着した。病室に向かい、梨乃の無事な姿に「よ、よかったぁ〜」とつぶやきその場に座り込んでしまった。
「出張から戻った足でこっちに来たんだろ。大変だったな」と涼祐も泰雅を労った。一方、真唯も泰雅と再会出来たのだが、彼を目にしたとたん真唯の心をある感情が覆ったのだ。
それは「ホッとした」というもの。真唯は今、確実に泰雅を見てホッと安堵したのだ。
(何でホッとしたんだろう私...。ああ、そうか。出張から帰ってきた水都さんがその足で無事に来てくれた事に安堵したからなんだ)
真唯は戸惑いながらもそう結論付けた。
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二人の刑事が病院を訪れたのは翌日の事だった。犯人の動機などがわかったのだという。真唯一人じゃ心細いだろうからと昨日から泊まり込んでくれているおばちゃんも許可をもらって同席してくれた。
まず、前回のラストにも記述した通り、梨乃を刺したのは養父の妻であった。動機は、夫(養父)が結婚した今でも梨乃の事を忘れようとしないから。妻によれば以前、夫が後生大事に梨乃の写真を持ち続け、更にその写真を食い入るように見つめながら「梨乃〜ずいぶんお前とは会ってないけど、きっとあの頃と変わらずカワイイままなんだろなぁ。娘の真唯ちゃんも可愛かったからなぁ」と息を荒くしながら話しかけているのを見てしまった。当然妻はそんな夫に耐えきれなくなって怒った。ところが夫は妻に謝るどころか「う、うるさいなぁ〜!梨乃とお前じゃ月とスッポンなんだよ」などと開き直られたと悔しげに供述した。刑事が「坪倉さんを殺すつもりで刺したのか?」との質問には「殺すつもりだった。そうしないとあの人は私を見てくれないし戻ってはこないから」と、殺せなかったのが心底残念というように答えた。この供述により妻は殺人未遂で起訴される事となった。
ひと通り話した刑事たちは真唯に、梨乃と養父の関係を尋ねてきた。
「.........」
真唯は梨乃から聞かされた話をそっくり話した。その際、刑事たちからは「当時相談できる人はいなかったのか」と聞かれて真唯は思わず椅子から立ち上がり
「養父は近所ではすこぶる評判がよかったようで、当時高校生だった母の話なんて...信じる人はいなかったと思います!!それは警察も同じなんじゃないですか?きっと母の話よりも近所の人たちの話を信じたでしょうし...。そんな状況の中で誰に相談出来たって言うんですか?!」と声を荒らげてしまった。隣に座っていたおばちゃんも立ち上がって真唯の肩を撫で続けた。
それに対して刑事たちは言い返してはこなかった。図星だったのだろう。今こうして梨乃の話を信じたのだって彼女が成人女性だから。
万が一、当時未成年の梨乃が訴えても信じてはもらえず「養ってくれてる人をそんなふうに言ったらバチが当たるよ」と刑事から言い返されていただろう。
でも、今更そればかりを責めても仕方ない。大事なのはこれから。
故に、真唯は刑事たちに訴える。
「それならば、どうか養父を母や私に近づけさせないようにして下さいませんか?刑事さんたちも奥さんの話を聞いて養父の母に対する執着がいかにスゴイかおわかりいただけたと思うので。母と私のこの切実なお願い、聞き入れて動いて下さいますよね?」
刑事たちは何度もうなずき「ただちに行動を起こします!」と約束してくれた。
同時に真唯も梨乃をひとりにするべきではなかったと後悔していた。涼祐の事で実家を離れたとはいえ、養父の事がスッポリ抜けていた。だからといって転勤を辞める事は許されない。そうなると、やはり養父を梨乃に近づけさせないように警察に手配してもらうしかない。
真唯がいなくても梨乃が安心して実家で暮らしていけるように。
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その日の夕方。病院の休憩ルームにて。
刑事たちから聞いた話を見舞いに訪れた涼祐に話した真唯。
すると涼祐が突然、「ごめん!!」と真唯に頭を下げてきた。そして
「俺はあの時...一緒に行こうと約束した梨乃先輩を裏切り、捨てたんだ...本当なら手を取っておじさんから守ってあげなきゃいけなかったのに...結局先輩ひとりで戦わせてしまった......!」と後悔の思いを口にしたのだ。
真唯はこの時、思いもかけず梨乃と涼祐の恋愛秘話を聞く事になったのだ。
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