第41話

 ようやく病院に到着した真唯は受付で母・梨乃の名前を告げた。

「はい、坪倉梨乃さんね」看護師はそう言うと梨乃のいる病室を教えてくれた。お礼を述べた真唯は頭を下げ、梨乃のもとへ向かうべく足を一歩踏み出したと同時に「......真唯ちゃん!!」という声が聞こえてきてピタっと足を止めた。

 その声の主はおばちゃんだった。彼女の姿を認めたとたん、真唯の中で頑張っていた何かがプツンときれて、瞳からはとめどなく涙があふれたのだ。

「おばちゃん......!!」

 おばちゃんの胸に飛び込む真唯。おばちゃんは不安だらけの状態でここにたどり着いた真唯を「よく頑張ってここまで来たね〜」と頭を撫でて労った。涼祐がすでにこちらに駆けつけており、今病室で眠ってる梨乃の様子をみてくれているという。梨乃がいる病室は個人病棟なので引き戸をノックしてから開けると、ベッドの梨乃の傍らに椅子に座っている涼祐の姿があった。

「真唯さん...!」

 椅子から立ち上がる涼祐。数カ月ぶりの再会であった。そしてベッドで眠る梨乃の姿を視界に捉えると重い足取りで歩み寄った。

 病院着の梨乃は刺されたであろう部位にカバーがかぶせられていた。

「お母さん......」

 真唯は梨乃の手を取ると両手でギュッと握りしめた。そんな真唯の肩に涼祐が優しく手を置く。

「真唯さん...」

「母、無事なんですよね」

「うん。刺し傷は深かったけど、危機は脱した」

 涼祐の口から出た「刺し傷」で梨乃をこんな目にあわせたヤツへの怒りがこみあげて真唯は自分でも驚くくらいに涼祐に「母を刺した犯人って捕まったんですか?!」と感情的に尋ねた。

 それに関しておばちゃんが「捕まったわよ」と返した後、梨乃が刺された時の事を話し始めた。

 隣に住んでいるおばちゃんは坪倉家からによる女性の悲鳴を耳にした。真唯が転勤で不在なのは知っているので悲鳴の主は梨乃のものだと推理。そして坪倉家

の玄関前に駆けつけると、そこには出血してる脇腹を手で必死におさえている梨乃の姿と、刃部分に血がベットリついたサバイバルナイフを両手に持ったまま逃げもせずに体を震わせている女性の姿があった。

 脂汗をかいている梨乃に向かって刺した女性は

「お前が...お前がいるから...あの人は夫婦になった今でも私を見ようとしないんだ...!!」と同じ言葉を何度もつぶやいていた。犯人は駆けつけた警察に逮捕され、梨乃は救急車で運ばれた。

 梨乃を刺した女性。実は彼女、梨乃の養父の妻だった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る