第40話

 会社を出た後、急いで帰宅した真唯は着替え等々をバッグに詰めてドアにカギをかけマンションをあとにした。地元への利用交通機関は鉄道である。ネットで実家がある最寄り駅までのルートを検索し、いくつかあった中から選んだルートに沿って行動を開始した。

 新幹線のチケットは当日自由席を買う事が出来たので座って東京を目指せた。


 道中、おばちゃんからメールがあった。

【梨乃ちゃん刺された傷は深かったけど命に別状なし。詳しい事はこちらに来てから】

 その文面に一瞬絶望したが、命に別状なしにすぐ安堵した。どうして刺されたのか、いったい誰に刺されたのか...それを考えると怖いのだが、まずは梨乃が生きてくれている事と世話をしてくれるおばちゃんに感謝しなければと思い直す。

 転勤先の最寄り駅から地元の最寄り駅まで実に三時間かけて到着。この時すでに日は暮れていた。病院は駅から歩いて15分のところにあった。


 その時、ブーブーとショルダーバッグの中のスマホが震えた。画面には「水都さん」と表記されていた。

 道の端に寄り、マホを耳にあてた。

「......もしもし。水都さん?」と発するやいなや【真唯ちゃん?!】と自分を呼ぶ余裕のない声が耳に飛び込んできた。真唯はとっさに帰る際、目が合ったのにまともな挨拶も出来ずに去った事を詫びた。すると泰雅から意外な返答が。

【上司や部署の人たちに早退を詫びる真唯ちゃんはどこか心に余裕のない状態に見えた。そこで気づいたんだ。もしかしたら梨乃先輩に何かあったんじゃないかって】

「............!」

 そこまで見抜いていたのかと驚きながらも、この人は唯一パニックになりかけた自分に寄り添ってくれたのだなと思い返すと、瞳からはボロボロと涙があふれた。我慢しようとすればする程、声は紡げずただただこらえるしかなかった。そんな状態の真唯に泰雅は大丈夫と返す。俺の前では我慢しなくていいからと。その言葉でいくらか肩の力が抜けた真唯は泣きながらも梨乃が刺されて病院に搬送された事を泰雅に話した。

【涼祐はこの事知ってるのかな?】

「母に付き添ってくれている近所のおばちゃんが笹倉さんにも連絡してくれてました。ですが、電話に出られない状態だったようで留守電に残したと」

【仕事中だろうから。今ぐらいの時間に留守電聞いてるかもな】

「そうですね。それとこっちに向かっている間におばちゃんから母の事でメールがあって」

 内容を伝えると泰雅もホッと安堵していた。

「さっき実家の最寄り駅に着いたので、その足で病院に向かいます」

【俺もさっきこっちに着いたから病院に向かうよ...ってどこの病院なのかな?】

「最寄り駅の近くにある〇〇病院です」

【ああ、〇〇病院ね。わかったよ。真唯ちゃん気をつけて来てね】

「ありがとうございます。水都さんも気をつけて」

 そう告げて通話を切った。スマホをショルダーバッグにしまった真唯は顔をあげて再び歩き出した。

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