第38話
その後しばらくは警戒したが、三輪の母親が会社にやってくる様子もなかったので胸をなでおろしていた。
季節はそろそろ桜の開花予想がニュースで取り上げられるようになった三月半ばが過ぎた某日の事。朝礼で、会社にお客さまがやってくるからすれ違う際には挨拶を心がけるようにとの連絡があったのだ。
以後、仕事をしている中で真唯は他の女性社員らが「今日のお客さまの中にイケメンがいるんだって」
「えーそれホント?」
「ホントよ。お客さまをお迎えした部署の子から聞いた情報だもの。間違いないわよ」
「それならぜひ見たいわよね。ああ、うちの部署にも来てくれないかなぁ」
「ホントよねー!」という会話を耳にする。それを聞いて真唯は(これは女の子たちが大騒ぎするわね。私も見たいかも)と心中で思いながらパソコンのキーをカチャカチャと叩いた。
休憩になり、自販機で飲み物を購入するとザワザワと話し声が聞こえてきたのでそちらに目をやる。その主こそ女子社員らが騒いでいた「お客さま」の集団だった。
その中に真唯は思いもかけない人を見つけてしまった。
(...うそ...どうしてあの人が...)
その人とは、泰雅であった。お客さまとは東京の会社の方だそうで六名が来社との話を女性社員が話していた。
(東京の会社って水都さんがいる会社だったんだ。じゃあお客さまの中にいるイケメンって、水都さんの事?)
どうやらそのようである。
泰雅との距離は離れていた上に会社の人と話しをしていたので、真唯の存在は気づかれていない。今の泰雅はお客さまなのだから、あえて自分がここにいる事を知らせなくてもいいと判断し、部署へと戻った。
✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠
同じ頃。
坪倉家では身支度を済ませた母・梨乃が外出のため家を出ようとしていた。玄関でハイヒールをはきバッグを肩にかけドアを開ける。
そしてバタンとドアを閉めてカギをかけようとした...その時だった。
梨乃とは違うハイヒールの靴音がゆっくり、ゆっくりと彼女の背中に近づく。もちろん、梨乃は気づかない。その主は女でブツブツと何やら言葉をつぶやいている。
「...お前がいるから...あの人がいつまで経っても私のものにならない...お前は私たち夫婦の幸せを壊す害悪...」
そして、バッグからキラリと光るサバイバルナイフを取り出すと速歩きになり、何か気配を感じた梨乃が振り返ったと同時に女もナイフを振り下ろしたのだ......!!
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