第28話

【ごめんね。一ヶ月経ったけどどうしてるかなって心配になっちゃって、ガマン出来なくてメールしちゃった】


(水都さん......)


 一ヶ月ぶりの泰雅からの「真唯ちゃん」呼びに懐かしさがこみあげてきた。それが表情にも出ていたのか、三輪から「スマホ画面を見つめてる坪倉さん...何だか嬉しそうだよ」と言われてしまった。

「え?嬉しそうに見えた?」

「うん。ひょっとして、彼氏さんとか?」

 その問いにはあわてて否定する。

「確かに男性だけど、違うのよ。ちょっと複雑なんだけどメール下さった方、母の学生時代の後輩でね。数ヶ月前に知り合って以来、いろいろお世話になってるの。今回の転勤でも心配してくれて」

「へー。不思議な繋がりだね」

 長い説明ながら三輪は納得してくれたようである。

「そういう三輪くんはどうなの?恋人とかはいないの?中学の時だってスッゴクモテたんだし」

 真唯がそう尋ねれば、三輪は何か考えるように「うん......」と言った後、黙り込んでしまった。あまりこの手の話はしつこく聞いちゃいけないと思った真唯は「まあ、人それぞれという事で」と言ってこの話を終わりにさせた。

 すると三輪は「返事出さないの?」と聞いてきた。

「返事?」

「うん。メールくれた人に。僕の事は気にしないでメールしちゃっていいよ」

 そう言ってもらえたので真唯は「ありがとう。じゃ遠慮なく」と前置きして文字を打ち始めた。


【水都さん。こんにちは。一ヶ月ぶりですね。私は徐々に一人暮らしにも慣れてきました。母からは週に一回メールが来ます。今のところ体調を崩す事もなくやってますので心配しないで下さい。水都さんからのメール、嬉しかったです。ありがとうございました。水都さんも体に気をつけて下さいね。】


 文字を打ち終えると再度読み返し確認してから送信。その間の真唯の表情は笑みに包まれていた。向かいでその様子を眺めていた三輪は先程の彼女の説明を思い返しながら(お母さんの後輩だとは言ってたけど、それだけじゃないように思えるんだけどな)なんて事を心中でつぶやいていた。



 あまりに居心地が良すぎたのと、混んでないのもあってすっかりカフェに長居してしまった。

「今日はいろいろお話し出来て楽しかった。これからも毎週土曜には図書館に行くからよろしくお願いしますね」

「こちらこそ、お待ちしています。それとは別にまたこうして時間を作って話をしようね」

「ええ」

 すると突然、三輪の表情が変わり「じゃあね坪倉さん...っ」と何やらあわてながら真唯に別れを告げ足早に去っていった。そういえば。表情が変わる寸前、一定方向を見つめていたように真唯には思えたのだが。

 その時、カバンの中にあったスマホからバイブ音が聞こえてきたので取り出せば新着メールの表記が。送信者は案の定泰雅だった。

【真唯ちゃん、メールありがとう!元気そうで安心したよ。寂しくなったら遠慮なくメールしてきてね。真唯ちゃんなら24時間受けつけてるよ〜】


 メールを読み終えた真唯。

「三輪くんにも再会出来た上に水都さんからメールをもらえたんです。おかげで寂しい気持ちは薄れました。それに24時間受けつけてるんじゃ水都さん眠るヒマないじゃないですか......」

 そうつぶやく彼女の表情は自然と笑みがこぼれていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る