第22話
「ああっっ!!!」
突然真唯が何かを思い出したように大きな声をあげた。しかしすぐにここはマンションの一室で隣近所もあるし、朝っぱらから大きな声を出して迷惑だなと思い返してあわてて両手で口元をおさえた。
驚いた涼祐は「どうしたの?」と尋ねる。
「今日から会社でした!一度着替えと用意のために家に戻らないといけません...」
説明しながら真唯は今まで寝かせてもらっていたベッドをキレイにし、バッグを手にした。
だが、そんな真唯を涼祐が止める。
「真唯さん、待って!せめて顔を洗って」
それからすぐに洗顔を済ませた真唯は涼祐が呼んでくれたタクシーで坪倉家へと向かった。「もしもの時のために」と言ってタクシーに乗る前に涼祐は余分にお金を持たせてくれた。
もうそれだけでも涼祐にとって自分は娘以外のなにものでもないという気持ちが伝わってきた。
もし、涼祐を好きにならずに、恋をしないうちに「あなたの本当のお父さんよ」と告白されていたら、彼から向けてもらえている愛情を素直に嬉しいと思えたに違いない。
(でもこんなの...贅沢なんだよね)
真唯はタクシーの窓から見える景色をひとりごちながら眺めていた。
✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠
坪倉家に帰った娘を母・梨乃は何も言わずに抱きしめた。無事でいてくれた事に安堵し、守ってくれた涼祐と泰雅に感謝した。
話もそこそこに真唯は会社へと出勤。昼休みには晃子に連絡を入れた。
彼女には昨夜のうちに涼祐から真唯発見の連絡を受けた母が知らせていたのだが、真唯自身もお騒がせした事を謝りたいと思ったのだ。
【よかった真唯が無事で。突然おばさんから真唯が家を飛び出してしまった、そちらに行ってないかって連絡をもらって、やっぱりおばさんと笹倉さんってただの先輩後輩じゃなかったのかなって、それがショックで飛び出しちゃったのかなって思ってたのよ】
晃子から涼祐が本当の父親という話が出なかったところを見ると、母はその部分だけ伏せたようだ。
だから真唯も「実はそうだったの。お母さんと笹倉さん、高校時代にお付き合いしてたんだって」とだけ話した。もちろん家を飛び出した理由はこれよりも更に衝撃的だったワケで、とっさに「二人がお付き合いをしていた事」にショックを受けたとごまかしたが、果たして晃子がそれを信じてくれるだろうかという不安はあった。でも話を聞いた彼女はそりゃショックだったよねとバカにするでもなく信じてくれた。
【ごめんね真唯。こんな時にうまく言葉が出てこなくて。真唯の立場に立ったらどんな言葉も励ましにはならないかなって】
正直に言葉をくれる晃子に真唯はありがとうと伝えて通話を切った。
恋をした涼祐が実の父親だった。
その事実だけで絶対結ばれる事のない未来を運命づけられている。
同時に、芽生えたこの恋心を昇華し、涼祐を父親として思える未来が訪れるのだろうか...。自信もないし今は考えられない真唯だった。
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