第21話
翌朝。
ヴーッ...ヴーッ...。
眠ってる真唯の耳にかすかに聞こえてくるバイブ音。
「......んっ...... 」
真唯はいつもの場所に置かれてるであろうスマホに手を伸ばし、バイブ音を止めようとした。
だが、いつもの位置にスマホはなかった。
(どういうこと?)
疑問に思いながら真唯はゆっくりと目を開ける。
「............」
見たことがある部屋ではあるが、確実に自分の部屋ではないと気づいたようだ。それから周りを見渡すと目にとまったのは、あの例の写真立て。そこに映っているのは高校時代の母・梨乃や涼祐、泰雅たちであり、こっそり梨乃と涼祐の二人だけで撮った写真も隠されてる。裏に「一生忘れられない人」と涼祐の字で書かれてあって。
「ウソ......」
ここまでくれば今、自分が誰の部屋にいるのかわかるというものだ。
ビックリした真唯はあわてて起き上がると自分の身なりを見下ろした。着ている服は昨夜と同じ。スマホが入ってるバッグはベッドのそばに置かれている棚の上にあった。中からスマホを取り出しアラームを解除。そこでバイブ音は止まった。
「私...どうして笹倉さんの部屋に?って...こ、このベッドって笹倉さんのベッド...?バッグも私のそばに置いてくれたんだ」
でも...どういう事、これはっっ!?
混乱してる中、玄関先では❝カチ❞という音が聞こえてきたと思ったら人が部屋にあがってくる音、更に部屋にその足音が近づいてきたので、真唯は身構えた。
「あ!目が覚めた?ごめんねひとりにして。今日ゴミの日だから一階の収集所に捨てに行ってたんだ」
明るい声と爽やかな笑顔で部屋に入ってきたのは、涼祐だった。
やっぱり...とひとりごちる真唯。あの写真立てがあった時点で涼祐の部屋に間違いはなかったが。
「さ、笹倉さん......おはようございます。あの...なぜ私は笹倉さんのお部屋に?しかもベッドに寝ていたんでしょうか?」
真唯からの質問に何やら考え込む涼祐。
「真唯さんは昨日の事、どこまで覚えてる?」
「家を飛び出してから居酒屋に入ってお酒を注文して飲んだあたりまでは...。それからはだんだん眠くなってきてしまって。何人か男性に声をかけられた気がしたんですけど」
真唯の最後の言葉に涼祐は今更ながら彼女を守れた事に安堵し、泰雅にも感謝した。
「真唯さん。男性に声をかけられたのは気のせいじゃなくて本当の事だよ。酔っ払った君を見つけた彼らは更に真唯さんを酔わせた末にどこかに連れ込むつもりだったんだ」
「えっ??」
「そんな状態の君を見つけたのが、たまたま会社の同僚と店に来た泰雅だったんだ」
「水都さんが?」
「泰雅があの時偶然店に来てくれたおかげで君は助かったんだ。アイツは男たちから君を守りながら俺にメールをくれてね、それを経て今君はここにいるってワケ。梨乃先輩からも君が家を飛び出したって連絡を受けてたから昨夜中に家に送りたかったんだけど、坪倉家を知らないから眠ってる君をタクシーで送る事も出来ないしで俺の部屋に連れてきました。梨乃先輩には泊まらせるって連絡はしてあるから心配しないで」
ここに自分がいる事は奇跡である。真唯は涼祐から経緯を聞かされて一番に思った。
「そうだったんですね...笹倉さんにも水都さんにも迷惑をかけてしまったんですね...」
「真唯さん。俺と泰雅に対しては迷惑かけたなんて思わなくていいんだよ。泰雅は君が大好きで大好きで仕方ないんだし、俺だって......娘である君を守れてホッとしてるんだから」
「.........」
「梨乃先輩が君に俺が本当の父親だと話した経緯は連絡を受けた時に聞いたよ」
まだ信じられない現実を突きつけられて混乱している真唯を見て涼祐は説明したのちに「本当にすまなかった」と真唯に頭を下げた。
「太一さんという素敵なお父さんがいるから俺は父親とは名乗らずにいよう。真唯さんとは同じ趣味で繋がってるただのオジ友(オジサンの友だち)でいられればいいと思ってたんだ。でも、こんな事になるんだったら出会った当初に父親だって名乗ればよかったと後悔した。結果的に真唯さんの気持ちを弄ぶような形になってしまったから。本当に...ごめんなさい!!」
「.........笹倉さん」
真唯は何度も首をヨコに振った。
「笹倉さんのせいでも母のせいでもないです。それに私...おととい酔った笹倉さんを水都さんとここまで運んできた時、眠ってる笹倉さんが寝言で母の名前を呼んでたのを聞いちゃってたんです。とっても切ない声だった。そこで気づいたんです。笹倉さんは母の事を今も好きなんじゃないかって...」
写真を見てしまった事だけは真唯自身、涼祐には言わないでおこうと決めた。あの写真と裏に書かれたメッセージは、涼祐だけの秘密の想いだろうからと。
「それで家に帰って母に聞いたんです。お母さんと笹倉さんって本当はどんな関係だったの?って」
「そうか......そういう事だったんだね」
「はい。笹倉さんは出会った当初から優しかった。もしかして、あの時点で私が娘だとわかってたんですか?」
「半分はね。まだ東京にいた時に泰雅から梨乃先輩には娘さんがいるという情報を聞いていた。娘さんの年齢を知って...もしかしたらと思っていたんだ」
その話を聞いた真唯は改めて涼祐の自分に対する気持ちが、父親が娘に向ける愛情そのものであると知ったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます