第19話
三人の男たちに囲まれるようにして座り、なおかつ酔っ払ってる女性客が真唯だった。
それを目の当たりにした泰雅はまだ飲もうとしている真唯の手にあったお酒が入ったグラスをヒョイと取り上げた。
「ハーイハーイ。もうこれくらいにしておこう、体に毒だよ」
酔っててもお酒が飲めないのに気づいた真唯は「まだのーむーぅ!」と彼女にしては珍しく駄々をこねた。同時に三人の男は突然現れた泰雅に「おい!何すんだよ!」「彼女まだお酒が飲みたいって言ってるんだ、勝手に取り上げるなよ」「てか、アンタ誰?」とつっかかってきたので「俺はこの子のお父さんと親友同士でね、その繋がりでこのお嬢さんとも顔見知りなんだよねー」と説明してから「この子の事は俺にまかせてもらえないかな?」と三人に提案した。しかし、泰雅が説明したにも関わらず彼らは引き下がろうとしない。
(なんだなんだぁ?強引にでも真唯ちゃんを連れて行く気かぁ?そうはさせねー)
「あっそ。とにかく、今からこの子のお父さんに迎えに来てもらうからさ」
泰雅はそう話しながらスマホを取り出してメールを打ち始めた。しばらくすると送る内容文が完成したらしく「送信」ボタンをタップした。それから送った内容文を口に出して三人に聞かせ始めた。
「❝娘さん発見。俺のいる居酒屋でお酒を飲んでるよ。何だか娘さんを酔わせていかがわしい事しようとしてる連中もいるからさ、迎えに来てやってくれないか❞」
それを聞いた三人はとたんにあわてだした。
「もう送信したから、じきにこの子のお父さんがやってくる。アイツすっごく溺愛してるからなぁ。大事な娘にいかがわしい事をしようとしてるアンタたちを見たら、何するかわかんないぞ?」
それを聞いた三人は更に顔を蒼くさせてガタガタと一斉にイスから立ちあがった。
「面倒を見てくれる人がいるのなら俺たちがいる必要はないですよねー」
「その子の事はお任せしますので...」
「俺たち、か、帰ります!」
それぞれがそう言うと逃げるように店を出ていった。どうやら入店早々、酔ってる真唯を見つけた事でとたんに目的が食事ではなく、真唯を更に酔わせたのちにどこかへ連れて行く事に変わったようだ。
三人が店から出ていったのを確認した泰雅は「真唯ちゃんをお前たちの毒牙にかけさせてたまるか!」と捨て台詞を吐いた。
涼祐を待つ間に泰雅は同僚たちがいる席に行き「俺、少し抜ける。知り合いの娘さんが客にいてさ、酔っ払っちゃってるんだ。たった今迎えに来てもらうようにお父さんには連絡したから到着するまでそばにいてやろうと思うんだ。終わったらこっちに戻ってくるからみんなは注文して食べちゃってよ」と告げると再び真唯がいる席に戻った。
真唯はすでに寝入っており、こんな状態じゃ尚更ひとりにしておけないと思っていたところに涼祐が現れた。泰雅が手を上げて合図をすると気づいた涼祐が真唯のいる席へと駆け寄り、寝入ってる彼女を見てビックリしていた。
「まぁ...酔っ払いたかった真唯ちゃんの気持ちもわかるな。好きになった相手が実の父親だなんて事知ったら」
「泰雅、お前...真唯さんの気持ちに気づいてたのか?」
涼祐の問いにうなずく泰雅。
「好きな子を見てれば、誰を好きなのかも気づいちゃうんだよな。俺はお前が真唯ちゃんの父親だって知ってるけど、彼女にダメだよって言うワケにいかなかった。俺自身、真唯ちゃんには気持ち伝えたけど俺が勝手に好きになったんだから、真唯ちゃんは真唯ちゃんのままでいいって言ったし」
「そうだったのか...お前はお前なりに真唯さんに気を遣ったんだな」
「もう二度と好きになった子を悲しませる真似はしないって、美華にも誓ったし......同時に真唯ちゃんの父親である涼祐を裏切るような事もしたくなかった」
「泰雅」
「好きになった子のお父さんにも安心してもらいたいと思うし」
「で、その真唯さんに何かしようとしてた男たちは?」
「少しオドかしたら逃げるように店を出ていった」
「お前は十分、信頼できる男だよ」
とりあえず真唯は寝てしまってるので酒代は涼祐が払った。泰雅も払うと言ったが「お前は会社の人たちと来てるんだし。足りなくなったらお前が困るだろ」とここは涼祐が払った。
そして、泰雅の助けも借りながら真唯を背中におんぶした涼祐。彼女のバッグも器用に腕に通した。
店の外まで見送ってくれた泰雅に涼祐は「知らせてくれた上に真唯さんを守ってくれてありがとうな」と礼を述べてから店をあとにした。泰雅も「気をつけて帰れよ!」と言って二人の姿を見送ってから店へと入り同僚たちがいる席へと戻ったのだった。
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