第18話

 .........え?今、お母さんはなんて言ったの?


 母の発言があまりにも衝撃的だったために、真唯の頭はそれを理解しようとするのを停止してしまう。


 一方でついに未来永劫話すつもりなどなかった禁断の事実を娘に話した母は「......ごめんね」としきりに謝罪の言葉を口にする。

「私が笹倉くんの事をキチンとあなたに話していたら...こんな悲しい思いをさせずにすんだのね。ごめんね真唯...お母さん自身があなたの恋をぶち壊した......」

 だが、真唯は信じなかった。信じられるワケがなかった。好きになった人が、実の父親だなんて。

 母に対しても信じられないと言葉をぶつけた。母も娘に芽生えた恋心を思うと泣けて仕方なかった。

 母だって娘に好きな人が出来た事を一緒に喜びたかった。でも相手は真唯の本当の父親だ。血の繋がった者同士の婚姻は法律でも禁じられている、それは当然の事だ。だが、今の真唯にそれらを現実として受け入れる事はキツかった。


 結果、真唯は家を飛び出してしまった。


 母はすぐにスマホを手にすると涼祐に連絡をとった。

【梨乃先輩?どうしまし......】

「笹倉くん...ごめんなさい。真唯に...あの子にあなたの事を話したの。あなたが実の父親だって話したのよ」

【え?】

「私自身、あなたの事は話さないつもりでいたわ。でも...真唯が...あなたに恋をしてるってあの子の口から聞いてしまったから......仕方なく話したの。でも当然あの子にはショックだったのね、家を飛び出してしまって...バッグを持っていったからあの子、ウチには帰らないつもりかもしれない」

【あの、幼なじみの堂上さんのところに行ったのでは...】

「そうか。そうよね。今から晃子ちゃんのとこに連絡してみるわ」

 そうして早速晃子に連絡をとったものの、真唯はこちらには来ていないとの事だった。再度涼祐に連絡し、来ていないと話せば【俺も探しに行ってきます】との言葉が。

【心あたりがありそうなところを探してみます。先輩は家にいて下さい。もしかしたら堂上さんから連絡が来るかもしれませんし】

「......笹倉くん、ごめんなさい。こんな形であの子に真実を話す事になってしまって」

【いえ。今は真唯さんを見つけ出す事です。泰雅にもこの事連絡しておきます】

「ありがとう。本当に迷惑をかけてしまって」

【迷惑だなんて思わないですよ。真唯さんは俺の娘です。泰雅も真唯さんの事大好きですから】

「......ありがとう、二人とも」


 ちなみに。真唯は二つ、母に話さなかった事がある。

 ツーショット写真の裏に『一生、忘れられない人』と書かれてあった事と、涼祐が寝言で母の名を切なそうにつぶやいた事だ。

 それは、真唯の中にある嫉妬がそうさせたのだろう。

 涼祐は今でも母を想い続けている。

 それを母に知られたくはなかった。



✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠



 時刻は夕方。

 泰雅はプライベートで会社の同僚と夕飯を外でとろうと、ある居酒屋に向かった。偶然にもそこは、昨夜三人で入ったお店だった。その時涼祐からスマホに着信が入る。同僚らに断って店の外に出て画面をタップし、スマホを耳にあてた泰雅はそこで真唯の事を聞かされた。

「わかった。俺も真唯ちゃんを探す」

 真唯の件を知った今、ジッとなんかしていられない。どこにいるのかもわからない彼女の身に何も起こらない事を祈るばかりだ。

 涼祐との通話を終わらせた泰雅は店の中にいる同僚らに用が出来たから抜けると伝えるため中に入る。


「............!」


 泰雅はある席にふと目がとまった。それは後ろ向きで座ってる女性客で、その周りには三人の男性客が座っている。泰雅はなぜか目を離せずに彼らの事を見続けた。

 すると男らの会話がかすかに聞こえてくる。

「いーよいーよ、ジャンジャン飲んじゃいなよ」

「酔っ払った君の事は俺らがキチンと送っていくからさ」

「あ、もうお酒ないの?じゃあ注文してあげるね」


(酔っ払ってる女の子に更に酒を飲ませるなんて......あいつら怪しいな)


 女の子を酔わせた男が次にどうするかなんてひとつしかない。


「.........」


 泰雅は迷わず席へと向かい、女の子を見てみると......。


「............!!」


 偶然にも見つかってよかったと安堵する気持ちと、不埒な事をしようとしてる男たちに怒りがわいた。


 そう。酔っ払ってる女性客とは、真唯だったのだ。



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