第17話

 日曜日。お世話になった晃子のウチをあとにした真唯は、複雑な気持ちを抱きつつ、家に帰宅するとすぐ母に疑問をぶつけた「お母さんと笹倉さんって本当はどんな関係だったの?」と。

 母は「いったいどうしたの突然」と不思議がったが、更にその疑問に至ったまでの経緯を真唯が話すと、それまで娘が無事帰ってきてくれたと安堵の表情を浮かべていた母の様子がおかしくなった。真唯の口から飛び出した「高校時代のツーショット写真」というワードもどストライクだったに違いない。

 ひとつ大きなため息をついた母は「ついにこの時が来たのね」と観念したかのように、どこか覚悟を決めたかのようにつぶやいた。

 そして「笹倉くんとは高校三年の時にお付き合いをした」と告白したのだ。同時に以前、養父の話に出てきた『高校三年の時に出会った恋人』が涼祐である事も語った。

「やっぱり」......聞いた直後に頭に浮かんだのがこの言葉だった。

 真唯は涼祐が好きだ。だから母と涼祐の関係を知った今、彼女はこう言ったのだ。

「......恋のライバルがお母さんだなんて...まるっきり勝ち目ないよね」

 娘のこの言葉になぜだろう、母は顔を蒼くさせた。

「ま、真唯......あなた、まさか...」

「私、笹倉さんの事が好きなの。あの人に恋をしてる...まだ告白はしてないけど」

 娘の言葉に涼祐への気持ちが本物であると悟った母は、この世の終わりのような表情を浮かべた。

 そして

「笹倉くんはダメ!!」と声を荒らげたのだ。

 反対されるだろうとは思っていた。きっと年が離れているからだと。だが母は「年が離れているだけで反対はしない。でも、笹倉くんとはダメなの。真唯はどうしたって、笹倉くんとは一緒になれないのよ」と言った。

 真唯にはワケがわからない。年が離れてるだけなら反対はしない。じゃあ他に反対する理由があるとしたらいったい何なのか?

「お母さんの言ってる事の意味が私にはわからないよ!何でダメなの?」


 その瞬間。

 真唯の中に、ある考えが浮かんだ。


「もしかして...お母さん...心のどこかで笹倉さんの事が忘れられずにいるんじゃないの?」

「なにを言うの真唯!」

「だってそうでしょ!お母さんが必死になって笹倉さんはダメだって言うのはつまり、そういう事なんじゃないの?」

「違うの...違うのよ真唯...」

「何が違うの?他に反対する理由ってそれくらいしかないじゃない...」

 真唯が「それくらいしかないじゃない」の次の文字である「の」を言い切る前に母はハッキリと言ったのだ。


「ーーーあなたの本当のお父さんだからよ!!」......と。 




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