第15話

 夜。

 外はいつの間にか雨がザーッと音をたてて降り始めていた。道路も水たまりができてるのでかなりの雨量である。


 ピンポーン......ピンポーン......。


 マンションの部屋の前でインターホンを押す真唯の体は雨でびしょ濡れだった。長いスカートの裾からはポタポタと水滴がしたたり落ちている。


 しばらくするとガチャとドアが開けられられた。

 現れたのは、幼なじみの堂上晃子だった。

「......真唯...どうしたの?それに、全身びしょ濡れじゃない。傘もささずに雨の中ここまで来たの?」

 突然現れた幼なじみの異様な姿に晃子は驚いた。対して真唯は小さい声で「......ごめんね。こんな夜遅くに。なんか...家に帰る気にならなくて......」と、つぶやいた。

「そんな事いいから、早く入って。風邪引いちゃう」

 晃子は濡れてる真唯の腕を軽く引いて部屋へと入れた。バタンとドアが閉まるとあれだけうるさかった雨音が遠くで聞こえるくらい静かになる。

「この状態であがると...床が濡れちゃうね」

 自分の今の姿を改めて見ながら、自嘲気味につぶやく真唯に晃子はタオルを床に敷くと「とりあえずここにあがって」と促す。それからも晃子の言う通りにしていた真唯は、幼なじみが向ける優しさに涙腺が緩んで......

 晃子の胸で泣き出してしまった。

「真唯......」

 びしょ濡れの体と、この時間に自分を頼ってきた真唯の心情を思って晃子はひたすら幼なじみの肩や背中をさすり続けた。



 涼祐が住むマンションを飛び出し、物陰で泣いた真唯はその後、最寄りの駅に着くと電車に乗り地元の駅に下車した。しかし、今の心理状態のままで母に会うのはキツイと感じた真唯は地元に住む幼なじみの晃子を頼ったのだ。


 泣きたいだけ泣いた真唯は晃子からシャワー室へと促された。びしょ濡れの服や下着を脱ぎシャワーからほとばしる温水に冷え切った体は次第に温かさを取り戻していく。

 その間に晃子は真唯の濡れた服と下着を洗濯し乾燥機に入れた。

 まだ詳しい話を聞かないうちに晃子はうちに泊まっていけと切り出した。まだ帰る気になれないのなら尚更だと。そこで真唯は気づく。

『帰ったら俺のスマホにメールを送って...そしたら俺、安心するから......』

 泰雅にメールをしなければいけない事に。

(どうしよう...正直に水都さんに話すワケにも。お母さんにもメールしないといけないし...)

 真唯は泰雅に次のように送った。

【地元の駅に着いたら雨が降り出してしまったので急遽幼なじみの女の子を頼りました。今その子の家にいます。今夜はここに泊まって明日の日曜に家に帰りますので心配しないで下さい。母にも連絡しておきます】

 一方、母には。

【駅に着いたら雨が降ってきたので急遽晃子の部屋に避難させてもららいました。今夜は泊まらせてもらって明日帰りますので心配しないで下さい】

 どちらも雨のせいにしてごまかした。



✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠



 同時刻。

 泰雅はこのまま涼祐を寝かせたままにもしておけないと彼を起こした。まだ寝ぼけてる涼祐にここまで真唯と一緒に涼祐を送ってきた事を話した。聞かされた涼祐はあたりを見回してから「真唯さんは?」と尋ねる。

「さっきまでいてくれたんだけど、梨乃先輩からメールが来て帰った。心配してるだろうからって」

「......そうだったのか。いや...お前も真唯さんにもすまない事をした......」

「いや、いいって。真唯ちゃんも悪いなんて思っちゃいないよ」

「......今度会った時に謝っておこう...」

 「で、真唯ちゃんに送ろうか?って言ったんだけど、駅近いしひとりで帰れるから大丈夫って。俺は涼祐の介抱をしてやって下さいって言われちゃったよ。でも俺は個人的に心配だったから家に着いたらメールほしいって伝えたんだ。だから、もうじき来るとは思うんだけどな」

 その時だ。

 泰雅のスマホがブルブル震えた。待ってましたとばかりにスマホを開き真唯から届いたメールを読む。


「............あちゃ〜今、雨降ってるのかぁ」

 泰雅に言われた涼も重い体をあげて窓の外を確認する。

「ホントだ。相当降ってるぞこれ」

「だからか。真唯ちゃん地元の駅で大雨に降られて幼なじみの女の子のウチに避難したって。今夜はその子んちに泊まるらしい。梨乃先輩にも連絡しておくって」

「ああ。真唯さんが言う幼なじみはおそらく「寄り道カフェ」で働いている堂上さんの事だろう。安心しろ泰雅」

「うん」とうなずきスマホに表記されてる時刻を見る。

「涼祐も起きた事だし、真唯ちゃんからもメールが来たから俺も帰るか...」

「ああ。今日は悪かった。気をつけて帰れよ」

 玄関先で見送る涼祐に、泰雅は先程の真唯の様子を話そうかと思った。しかし彼は眠っていたし話してもわからないだろうと思って話すのはやめて涼祐宅をあとにしたのだった。

 

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