第13話
涼祐のスマホが着信音を奏でる。手に取り画面を確認するとそこには「父」の表記が。
ため息をついた涼祐は画面をタップするとスマホを耳にあてた。
「もしもし?父さん?」
【お、涼祐。元気だったか?】
「元気だよ。父さんは?」
【父さんも元気だ】
実は父からの電話はこれが初めてではない。内容はどうせ決まっているから涼祐はため息をついたのだ。
【それでな涼祐。お前にいい見合い話がな】
ホラ、やっぱり。
来る度に断ってるのに諦めの悪い父親だ。内心思いながら涼祐は今回も断る方向へ持っていくよう奮闘する。
「あのさ、どれだけ見合い話を持ってこようが俺は今のところ結婚する気はないから。先方にも断っておいて」
ただし父もハイそうかいと納得して電話を切る人ではない。
【そうは言ってもなぁ、お前ももう35なんだぞ。ついこの間も高校で友だちだった子(男の子)が結婚しただろ。お前ももうそろそろ身を固めないと】
「今の時代は、独身男性も多いし結婚だけがすべてっていうのは昔の話なんだよ」
【涼祐......】
もう何回同じ会話をしてるのか。いい加減イヤになって涼祐は心の奥に秘めていた気持ちを話し始める。
「......もういい加減、俺の思う通りの人生を送らせてくれよ。俺は母さんのせいで一緒になりたかった人の事を......諦めたんだから。父さんもわかってるだろ、母さんの俺への執着......」
【............】
「その母さんも亡くなったんだ。もう自由にさせてもらったって文句はないよな。亡くなってまで母さんに支配されるなんて......俺はゴメンだ」
通話を終えた涼祐はぐったり疲れてしまいソファに横になった。今回、母の事を伝えたので父もわかってくれただろうか。あのあと父は何も言わず、ただ体には気をつけるんだぞとだけ言った。
母の涼祐に対する執着は彼が大きくなるにつれて徐々に強くなっていった。涼祐に彼女が出来ても母はその存在を知ると「母さん反対よ!お前はまだ子供じゃないの!」と反対した。その妨害は激しく、おかげで女の子と付き合った事もなかった。
だが、高校1年生の時に心から愛する人・先輩でもある梨乃と出会った。人生において一番好きになった人だった。今までなら母に反対されて妨害されては諦めてきたが、この人との恋だけはどうしても貫き通したかった。
だから母に伝えた。彼女も息子の好きな相手に対する気持ちの深さを初めて目の当たりにした事で発狂。今まで以上に束縛した。
「涼祐は母さんを捨ててその女と行く気なの?!あなたはまだ子供なのよ!!子供の分際で運命の相手だとか愛してるとか......軽々しく口にするんじゃないの!!お前は、母さんの言う通りにしていればいいのよ!!」
そして、結果的に梨乃と一緒にはなれなかった。どうしても諦めざるを得なかったのだ。
涼祐はふといくつか飾られている写真立てのうち、ひとつの写真に視線を向けた。
そこには高校時代の涼祐が写っている。泰雅も母・梨乃も一緒に。
❝涼祐はあの頃からずっと変わらず梨乃先輩なんだろ?❞
泰雅に会った時、彼から言われた事を思い出していた。
今も消えない梨乃への想い。あれから彼女を忘れなきゃと何人かの女性と出会い、お付き合いするところまでいったのだが結局いまだにひとりのままでいる。
それに、ある疑問もあった。だが疑問が確信になった事で尚更梨乃を忘れられなくなった。
もちろん最愛の伴侶への愛を貫く彼女には伝える気はない。
この消せない想いは墓場まで持っていくつもりだ。
「梨乃先輩......」
涼祐が呼んだ名前には恋い慕う、吐息混じりの声色が伴っていた。
これは真唯が聞いてはダメな声。聞けば絶対に、呼んだ名前の人に恋をしている事がわかってしまうから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます