第3話

 父・太一の葬儀、告別式は弔問客も印象に残るものとなった。

 葬儀の時は棺の中で眠る父を前にしても気丈にしていた母が、告別式では大号泣し棺の中の父に泣き縋った。もうあと少しでこの姿での愛しい人を見られなくなるんだ、会えなくなるんだと思ったらそれまで保っていた気持ちがプツン、と切れたのだろう。それでも母は泣きながら「太一さん...私の夫に...真唯の父親になってくれてありがとうね...。あなたに出会えて私と真唯は幸せでした。これからも私は太一さんを愛してるから」と父に伝えたのだ。父の母親を含めた親族(父はすでに他界)も参列し

「太一。私たちを梨乃さんと真唯ちゃんに会わせてくれてありがとう。二人の事は母さんたちに任せて安心して天国に行ってね」と息子に伝えた。

 この時は真唯も泣きながら母を支えた。生まれてからずっと守り育ててくれた母を今は私が守るのだと。


 そんな母娘を前に涼祐たちは目頭を熱くし、泰雅などはオイオイ泣いていた。



✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠



 父を喪った悲しみを抱えつつ真唯は再び会社勤務の日々に戻った。

 休日には行っていたあのカフェも父が亡くなってからは行っていない。しかし行かない理由はもうひとつある。

 あんな形で涼祐と顔見知りになってしまったのだ。カフェでバッタリ顔を合わせてしまったら、もう他人のフリなんて出来ない。


 でも。

 真唯はあの日から涼祐に会いたい気持ちが次第に募って仕方なかった。




 だったらどうしたいか。


 気持ちに、ウソはつけない。



✠✠✠✠✠✠✠



 土曜日。気持ちに従って寄り道カフェに向かってみた。入ってみて店内を見渡すと......涼祐はいた。彼もふと何の気無しに出入り口に視線を向けると真唯の姿があったので、笑顔で手を上げた。

「.........!」

 涼祐に会えた...! 嬉しくなって吸い寄せられるように真唯は涼祐のいる席へと向かった。たどり着くと彼は変わらぬ笑顔で「こんにちは」と挨拶してくれた。

「こ、こんにちは。まさか笹倉さんに会えるなんて思いませんでした」

 そう話しているうちに涼祐は、自分が座ってる一人掛けの隣席が空いていたのでそこに座るよう促した。

 こうして隣の席に座った真唯は周囲の女性客からの(このイケメンとどんな関係なのこのコ!)という視線を受けながらも、涼祐との会話を噛み締めた。

「真唯さんはこのカフェにはもう何度も来てるんですか?」

「はい。それに幼なじみががここの店員なので」

「そうなんですね。俺は偶然ここを見つけてからの常連。居心地がいいから長居しちゃうんだけど」

「わかります。私も休日のたびにここに来ては読書して過ごすんです」

「俺もです。今も読書に夢中になってました」

 真唯は心中で(知ってます)とつぶやいた。まさか以前から知っていてあなたをウォッチングしてますなんて言えないから、涼祐からの「じゃあお互いまだ面識がない時にすでに店内でそれぞれにすごしていたかもしれませんね」という話にも「そういう事になりますよね〜」と合わせた。

 涼祐と話をしていくうちに少しずつ彼の事がわかってきた。

 地元はこちらだが、半年前までは別のところで暮らしていてある事を機に戻ってきたとの事。その「ある事を機に」というのが気になった真唯だが、本人が濁したものを根掘り葉掘り聞くのも失礼だから遠慮した。それは恋人の有無も同様。でもまだ尋ねられるほど親しい間柄ではないからこれも遠慮した。


 涼祐の事をもっと知りたいーーー。


 この時、すでに真唯は涼祐に恋をし始めていたのかもしれない。

 

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