第2話

 涼祐の自己紹介が終わると彼の隣にいた男性が「次、俺だね」と切り出した。

「水都泰雅といいます。コイツ(涼祐)の親友で梨乃先輩の後輩です。よろしくね、真唯ちゃん!」そう自己紹介するなり泰雅は真唯の手をギュッと握った。落ち着いた雰囲気の涼祐に対し、泰雅は喜怒哀楽があって表情がコロコロ変わる印象を受けた。突然手を握られた真唯だったが不思議と嫌な感じはしなかったので「よろしくお願いします。今日は来て下さってありがとうございます」と述べた。

 しかし涼祐は「またお前は。女の子と見るとすぐこれだ」と半ば呆れている。

「仕方ないだろ。俺は女の子が大好きなんだ。女の子を見ると声をかけずにはいられないの」

 泰雅には泰雅なりの言い分があるようだ。

 するとそれに関して他の人が「そういえば、梨乃先輩を初めて見た時も真っ先に声かけてたもんな」と思い出話を語った。対して泰雅も「当然!」と返していた。

「先輩が娘さんを連れて男性と結婚をしたって話はクラスメイトから聞いてました。今日遺影のご主人を見て先輩たちが幸せだったんだなってわかって安心したというか...生きてるうちに(ご主人に)一目会いたかったなって残念に思ってます」

 泰雅の言葉に真唯の母は目を潤ませ「ありがとう...水都くん」と深々と頭を下げた。泰雅という人は女の子好きだなだけでなく、キチンと気遣いの出来る人のようだ。



✠✠✠✠✠✠✠✠✠✠



 真唯はひとりお寺の敷地内にある池にいた。もうそろそろ行かないと、葬儀が始まる。

 わかってはいるのに足が向かない。

 やはり今も自分の発言が父に「今生の別れ」なんて言葉を言わせてしまった事への罪悪感が消えなくて...父と向き合う勇気が出ない。


「真唯さん」


 自分を呼ぶ声が聞こえて池の鯉たちを見つめていた顔をあげると、やってきたのは涼祐だった。


「探しました。もうすぐで葬儀始まるのに真唯さんが戻ってこないとお母さんが心配してますよ」


 真唯は心配をかけてしまった事を謝ると1歩先を行く涼祐の背中に「.........母は...私を憎むでしょうか」とつぶやいた。

 その言葉に涼祐は目の前の女の子が抱えてる何らかの罪悪感を感じ取った。


「出会ったばかりの俺でもいいなら話して下さい。聞きますよ」


 真唯は一方的に再会した人だけど、目の前の涼祐からどうしてなのか安心を感じられてボロボロと涙が出てしまった。


 真唯は、父への罪悪感と同時に母から憎しみを持たれるのではないかと思っていた。娘の自分から見ても本当に仲の良かった父と母だったのだ。そんな幸せが突然壊されたのだ。母からそう思われても仕方ないと思っている。


 真唯の胸の内を聞いた涼祐は次のように話す。

「梨乃先輩もそれを話してました。娘が感じる必要のない罪悪感を抱えてると」

「感じる必要のない...罪悪感」

「お母さんはご主人の死を娘に責任転嫁するような人ではないですよ。それは育ててもらった真唯さんが一番よくわかっているんじゃないかな」

 母は父と出会う前、真唯を育てる過程で大変な時もあっただろうに娘の前では常に笑顔だった。

「真唯さんは変わらず、お母さんを大事にしてあげて下さい。ご主人、お父さまを亡くされてお辛いでしょうがどうか...前を向いて生きていって下さい」

 涼祐からの言葉は砂に染み込んでいく真水のように真唯の心を潤していった。

 真唯は再び泣き出し

「...今回のような事がまたあったら...笹倉さんに相談してもいいですか?」と尋ねた。

 涼祐は笑顔を見せ

「俺でいいのなら話、聞きますよ」と答えたのだ。



 戻る道すがら真唯は

「笹倉さんは、母の事を知っていらっしゃるんですね」と話した。涼祐は「まぁ、俺は高校の後輩でしたし、密かに憧れてた人だったから」とつぶやいた。


「え?」


『密かに憧れてた人だったから』

 ここだけ涼祐が小声でボソっと言ったために真唯の耳に届きはしなかった。

 再度尋ねようとした真唯だが、涼祐からの「真唯さん、急ぎましょう」に急かされて駆け足になったので、涼祐にとって母が憧れの人だった、という話を真唯が知る事はなかった。

 

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