第12話:HER:STORY【4】

 なぜ惹かれたのか、考えることはしなかった。


 ただ、あのまま帰ってもねつけないと、そう確信していたからだ。だったら、疲れ切ってからのほうがいい。

 クドウは通用口に向かって、進んでいく。

 そして、長い回廊へ。

 あの短髪の吸血鬼のうしろへ。そのままの姿では、きっとすぐに見つかってしまう。

 だからクドウは身をかがめ、月明かりが差し込むなかで、変化を行った。

 小さなネズミの姿に。吸血鬼たちは醜悪だと忌み嫌う。

 まだバレていない。

 やがて彼は、ひとつの部屋のなかに入っていく。

 自分たちとは違い、彼らには個室が与えられているのだ。

 ……閉まる音は、しなかった。

 こっそりついていくと、少しだけ扉がひらいていた。

 まさか、ドラキュリーナが後をつけているなど、思いもしないだろう。しかも、薄汚いネズミの姿になってまで。

 隙間から、そっと覗く。ろうそくの柔らかい光――。


 そこには確かに、その吸血鬼が居た。

 クドウは釘付けになった。彼の姿に。

 いや、彼というのは、正確ではなかった。


 外套を脱ぎ、ローブのような柔らかい部屋着に身を包むその直前、はっきりと見たのだ。

 吸血鬼の、男のものでは決してあり得ない、胸のふくらみを。その柔らかなはだのいろあいを。


 頭が混乱して、集中力が乱れた。それが運の尽きだった。

 変化の呪法が、そこで解けてしまったのだ。


「……誰だ」


 急いで来た道を引き返そうとしても、遅かった。

 ローブの左右をかきあわせて扉を開けた彼――彼女に、クドウは、見つかってしまった。

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