第20話



 私は今、10階層のダンジョンボスと対峙している。

 旧市街から車で1時間行った先にあるダンジョンで、かなり昔に出来た古いダンジョンだ。

 渋谷にダンジョンが出来る前は探索者養成学校の授業はそこのダンジョンを利用していたが、渋谷にダンジョンが出来てから使われなくなった。

 10階層からボス部屋があり、10階下に潜る度に階層ボスが現れる。 そして、60階層のラスボスを倒すと走破する事が出来るらしい。

 一度ボスを倒してしまうと、それ以降その階層のボスには会えなくなる為、攻略してしまうと次のダンジョンへと行ってしまい、通う人が減っていってそうだ。

 旧市街にある学校は、渋谷ダンジョンの方が近いので、自然と皆渋谷に向かうので、学生も通わなくなり今ではかなり廃れているダンジョンでもある。


 廃れているという事は、ボス部屋で順番待ちする探索者も居らず、スムーズに回れる事から、今回の修行には向いてるそうで、あきらさんに連れられて来たのだけど……。


 「なんでいきなりボス戦なんですかっ! 無理ですって! 5階層にすら潜った事無いんですよ私っ⁉」


 「大丈夫大丈夫! ちゃんと見守ってるし、マニュアルも読破したでしょ?」


 「たしかに読みましたし、手順も覚えましたけどもっ!」


 10階層のボスは、ソルジャーゴブリンを頭に取り巻きのホブゴブリン5体、ゴブリン20体の集団が出てくる。


 そ・れ・を! 私一人で相手させるとか、色々おかしいでしょう!


 なぜこんな事に成っているかと言うと、忍者修行で旧市街3階層に住んでるあきらさんの処に来た初日、身体能力を調べたいという要望に応え、前後に重さ50キロの鉄粉を入れたリュックを背負わされて、2階層から17階層まで階段を駆け下りて、再び2階層まで駆け上るというタイムアタックをやった。


 そのタイムが玲さんの定めた時間よりも早く、身体能力をこれ以上上げる必要性を感じなかったからだそうだ。


 私に必要なのは実戦だと確信したらしい玲さんは、次の日の朝早くに私を連れてこのダンジョンへとやって来て、そのまま10階層まで降りてボス部屋に突入し、私だけで戦うように支持してきてのだ。


 私の手には愛用している短い木刀の他に、玲さんが昔使っていた忍者刀を装備している。


 ステータスを確認した結果、私は二刀流が向いてるそうで、この装備になったのだけど……。


 私としては、木刀の方を盾代わりにしていたに過ぎないので、正直不安しかない。


 玲さんがいうには、集団ではあるが、ここのボス戦はゴブリンならゴブリンだけが向かってきて、後ろに控えているホブゴブリンとソルジャーゴブリンは待機して居てくれるので、ソロでも十分戦えるらしい。


 だったとしても、ゴブリンは20体居るのだ。

 私も集団戦はやった事はあるが、精々居ても3体とか4体しかない。


 それが今目の前に居るのは20体のゴブリである。


 冷や汗どころの話ではないのに、後ろをチラッと振り返ると、ゴザを敷いたその上で、車の運転をしてくれたサンタさんというお爺さんと玲さんがお茶を啜っていいるのだ。


 緊張感の欠片も無い状況である。


 「がんばれ〜」と、煎餅をバリボリ齧りながらサンタさんが応援してくれているが、全然力が入らない。


 寧ろ、無言で気配を消していてくれた方が、やる気になるというものだ。


 だが、私はここに修行に来たのです。


 スパルタは覚悟の上だった筈で、ここで弱気になって尻込みしていても、何も変わらないし、終わらない。


 だったら、もうやるしかなかった。


 「う、うらぁああああああっ!」


 そんな遠吠えの様な声を出しながら、私はゴブリンの集団へと向かって駆け出すのだった。

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