第18話 SIDE:井道智一③
思わぬ所で大量に黒竜の鱗を手に入れられてホクホクしてたら、他の爺さんズも応接室に集まってきて、何やら話が弾んでいる。
暫くすると話が纏まったのかそろそろ帰ると言うので、別れの挨拶をしようとしたら、手で制されて車を出して送ってくれる様だ。
何でも最近買った魔石仕様の車らしく、なるべく走らせたいらしい。
序にうちの爺ちゃんから剣術を学びたい様で、爺ちゃん行き付けの渋谷警察署にある道場の道も憶えたいみたいで、目に優しく無い忍者服を着込んだ爺さん達も、同じ車に乗って行くそうだ。
チカチカ爺さん✕五
うちの家族✕三
漆黒の忍者服を着たお姉さんの九人が乗れるバスみたいな車のようだ。
表玄関から出て裏口で待っててと言うので待ってると、何処からともなくファファーレみたいな音楽が鳴り響き、その音楽と共に裏口が開いていく。
「おおー! なんか凄いな!」
父も爺ちゃんも大はしゃぎだ。
少し待ってると銀色のボディー色を纏って、何に使うか分からない付属品が屋根とフロントに付いたワゴン車みたいな車が、ゆっくりと出てきた。
運転席にはピンクの蛍光色を着た忍者服を着込んだ爺さんが居て、他の方たちは? と、思ってたら楽器を片手にわちゃわちゃしてた。
──生演奏かよ!
思わずツッコミを入れそうになったが、何とか踏みとどまる。
すると、今度は開いた扉を人力で閉めて、表玄関から此方に走って来た。
……で、すっげぇ満足そうな顔をしてる爺さん達は、車の横の扉を開けると次々に乗り込んで行く。
──多分観客?が居る前でやったのが初めてなんだろうな……。
取り敢えず色々言いたかったけど楽しそうな爺さん達を見ていたら、如何でも良くなって俺も車に乗る事にした。
うちの爺ちゃんは助手席に座り、道案内をするらしい。
父はチカチカ爺さん達と座るらしく真ん中ら辺に座り、漆黒の忍者服を着たお姉さんと俺で後ろの座先に座った。
エンジンが掛かると俺の座る横の窓から外が見え、すぐ下のボディーから翼のような物が生えてきた。
右奥のミラーを見ると、反対側からも生えてきてるのが見える。
「と、飛ぶんですか⁉」
思わずそう言ってしまうのも仕方がないだろう。
現に航空機みたいな翼があるんだし?
「あ、いえ飾りです。 うちの父が作りまして……」と、顔を真っ赤にして恥ずかしそうだ。
お姉さんの父は赤い蛍光色の忍者服を着た爺さんらしい。
随分歳の離れたお父さんなんですねぇ……。
お姉さんは見た感じ30代前半くらいに見えるので、孫と言われても良いくらいだ。
──爺さん……頑張ったんだな。
と、思ってたら養女らしい。
実母は会社が倒産するかもって時に蒸発し、レッドチカチカ爺さんに養子として引き取られたんだそうな。
────つか……。
「そんな辛い話をさせてしまって申し訳ありませんっ!」
そう謝ったが、チカチカ爺さんズが居てくれたので全く辛くなかったんだそうだ。
初っ端から重い話をしていると、曲がり角に差し掛かり、角に生えてた樹木を翼が薙ぎ倒しながら曲がって……。
「……って! 明らかに翼が邪魔だろ⁉ 飛ばねーなら仕舞えよ! 標識まで薙ぎ払ってんじゃねーかよ! どんな素材使ってんだよ⁉ この謎の翼!」
思わず叫んてしまった。
「ほらぁ! やっぱり邪魔なんじゃない! 仕舞ってよお父さん!」
お姉さんも知らなかったようだ……。
──チカチカレッド爺さん、舌打ちしやがったよ……。
流石に標識を薙ぎ払ったのは不味いと思ったんだろうか。
出す時より速く翼が仕舞われていき、そのまま走り去る……。
「って! いやいや駄目だろ⁉ 薙ぎ払った標識そのままかよっ!」
再び俺が突っ込むと、再び赤い爺さんは舌打ちし、車を止めると運転席からピンク爺さんが出て来て、力技で直すと戻ってきて
「何か新鮮じゃなぁ! ツッコミ役居ると! 最近じゃお嬢も諦めちゃって文句言わなくなって寂しかったんじゃ! ありがとな若いの!」
…………何故か褒められた。
そして何事もなかったかのように走り出す。
樹木は⁉ と、思って後ろの窓から外を見ると、折れて倒れた樹木は無くなっていて、トゲトゲしい切り株だけが見えた。
アイテムバック持ちか……。
用意周到過ぎないか? 大丈夫なのか?
段々と不安に駆られるが、特に誰も止めないのでそのままにした。
お姉さんを見ると、チカチカ赤服爺さんに向かって何か話していたが、ガン無視を決め込んでるのか、全く話を聞かず他の爺さん達に話し掛けていた。 そして、お姉さんも諦めたのか席に座り直してた。
お姉さんは昔から苦労が絶えなかったんだろうなぁ……。
俺もうちの父親と爺ちゃんに挟まれてた時はそうでしたよ。
と、何か親近感の様なものが湧いてきて、目を細めて微笑んでしまった。
エレベーターを乗り継いで地上へと出ると、急にスピードを上げ始めかなりの恐怖感を味わう羽目になった。
何キロ出てるのかも分からず、景色だけが後ろに吹っ飛んでいく感覚。
そこで俺は思わず言ってしまった。
馬鹿なことをしたな……と、今なら思う。
「翼を開いたら飛べるんじゃないかってくらい飛ばしますね!」
言った瞬間後悔したが、全ては後の祭りである。
嬉々としてはしゃぐ爺共と危機を感じて椅子にしがみつく俺との温度差がエグい。
ふと、お姉さんを見ると───
爺共と一緒に燥いでた。
──お姉さんは諦めたんじゃ無くて、爺さん達に染まったんだね……。
そんな下らない事を考えてたら
赤「んで? 降り方は如何すんじゃ?」
青「考えてなかったのか?」
赤「今思いついた事じゃし」
緑「地面に着いた瞬間飛び跳ねたら良いんじゃないか?」
黄「それで行くか」
桃「それでいいの?」
黒「良いわけないじゃないよぉぉおっ!!」
と、叫んでるお姉さんと、着陸する事を考えてなかった爺共は取り敢えず無視して、俺はやがて来るだろう衝撃に備えるのに必死こいていたら、家の爺ちゃんに「智一! お前の腹を今こそ役立てる時じゃ!」と言われ、
すかさず父に「智一の腹は渡さねー!」と、何故か取り合いに……。
───もう本当にヤダこいつら。
無事に帰れたらブロックしようと心に決める智一だった。
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