第17話 SIDE:井道智一②
バスに揺られる事40分、その間俺だけ無言で後ろの座席に座る。
右端に父である兼光が座り、延々と俺に話しかける。
左端に爺ちゃんが座り、延々と俺に話しかける。
主な内容は全て晶の忍者服についてだ。
どんな形にするのか、どんな色にするのか、どんな付与を付けるのか。 同じ内容を二人がいちいち聞くのだ。
爺ちゃんが話せば、父は窓の外を眺め話は聞いてない。
父が話せば爺ちゃんは窓の外を眺めて話は聞いてない。
呆けた爺に何度も同じ説明をしてる看護師の気分になってくる。
バスが件の旧市街の一階層へと着いた時は、心底喜んだ。
漸く開放されると喜んだのも束の間、爺ちゃんの伝が住んでる階層が三階層だと聞いてガッカリする。
結構な歳でもある為、態々一階層にも呼べず、此方から出向かなくてはならないらしい。
そして始まるこの旧市街の話。
父が過去の呼び名を説明すれば、爺ちゃんは当然の様に外の景色を眺め、父の話が一段落したら、爺ちゃんが過去の呼び名の説明をする。 その間当然のように父は窓の景色を眺めては、同じ話をしてる爺ちゃんに勝ち誇った顔を見せる。
無言で始まる変なバトルに巻き込まれた俺は、呆けた爺さんになった気分で二人をやり過ごす。
やがて三階層にお降りの方はというアナウンスが流れると、俺はスクっと立ち上がってバスの出口へと向う。
俺を間に挟んだまま殺気の飛ばし合いが始まったので避難したのだ。
──二人から殺気を浴びた俺はもうフラフラよ⁉ やめてっ! 晶のために争わないで! 争うなら俺のいない所でお願い!
なんて言ったところで聞いちゃいないので、心の中だけで叫ぶ。
プシュっとなった瞬間、俺はバスから飛び出して、新鮮な?空気をこれでもかと吸い込み、周りの景色を眺める。
あ、バス代は先払いで一律500円なので支払い済みです。
何故か全員分支払ったので1500円でしたが……。
何でコイツラ現金すら持ち合わさてねーんだよ。 ICカード代わりのギルドカードすら持っておらず、全額俺持ちですよ。
ソンなんでよくバスに乗ろうと思ったなっ!
待ってりゃいーだろうが!クソオヤジ! なんて言おうもんなら鉄拳が飛ぶので言いませんが。
色々理不尽な爺どもを従えて、やって来ました旧市街。
この旧市街は住居ダンジョンと呼ばれ、魔物が1匹も存在しないダンジョンで、主に酪農、稲作、麦に大麦、海、川、山と、何でもあるので、ある意味ここで産まれたら一生暮らせる場所とも言える。
二階層と三階層には住居の他に食料工場、ビール会社、米問屋、味噌問屋、各種お菓子製造会社等々企業も多く支店があるし、小中高大もあるので本当に一生住める場所のようだ。
探索者以外ならと、後に付くが。
愚昧の様に勉強そっちのけで身体を馬鹿みたいに鍛える奴には向かなそうな土地でもある。
因みにバスは、巨大なエレベーターに乗って階層を降りてくるので、バスの窓からの景色は壮観だった。
天井がやたら高いので、一階層から二階層に行くのにエレベーターを使用してるみたいなのだ。 そして、二階層に着いたら一度エレベーターから降りて、街の中を走り再びエレベーターにバス毎乗って、三階層の天井から地上に降りるらしい。
階層を渡るには一度違う道から下層へと行くエレベーターに移動する仕組みみたいで、中々に楽しい作りだった。 しかも、人用のエレベーターは無いそうだ。
歩いて向かう場合でもバスと一緒にエレベーターに乗る必要がある様で、隣の隣人がバスみたいな感覚といえば分かるだろうか?
偶に軍の車両も居たりして、それだけでファンタジーみたいに感じる。
そんな場所が旧市街の景色なんだそうだ。
そして、バスを降りて暫く住居の中を通り、大通りに出ると6階建てのビルの前に出た。
どうやら此処が目的の場所らしい。
爺ちゃんに何階か聴いたら、このビル毎その方達の住む家なんだそうで、流石に驚いた。
一階にある玄関口を通り、中へと進むと其処は映画忍者戦隊五六人ジャーの当時のポスターから最近のポスターが壁一面に貼れていた。
何十枚もあるが、どれも絵柄は違うようだ。
「こんなに沢山あるんだね」
俺がそう関心したように呟くと、すぐ横に知らない人が立っていて
「そりゃあ何度も何度も上映されて来た人気の映画だしね」
その声に驚いて見ると、爺ちゃんと変わらないくらいの人が立っていた。
爺ちゃんは何方かというと、ザ・武士という出で立ちに対して、この人はロマンスグレーの忍者みたいな出で立ちであった。
ただ、目に優しくない蛍光ブルーなため、ロマンスグレー感が台無しであった。
「始めまして、私は大槻特撮映画会社の総務をやらさて頂いております、谷川と申します」
そう言って名刺を渡されたので、俺も名刺を差し出しながら挨拶を交わす。
「始めまして、私は井道智一と申しまして、裁縫師を営んでおります。 この度は私の祖父である井道正一の紹介で弊社にお伺い致しました、どうぞよろしくお願いします」
何とか挨拶を交わし、応接室は2階にあると言うので、案内されるがまま着いていく。
爺ちゃんも初めて会うらしく、似たような挨拶を交わしていた。
──知り合いじゃなかったのか? よく関係性が分からない。
父さんは何度か見知った仲の様だが、妙に畏まった感じで挨拶を交わしていた。
そんな様子を見れば、この方の地位が何となく見えてくるというもので……。
──何者なんだろう。父はこんなんでも、千葉ギルドのサブマスだ。それなりの地位もあるのに、そこ迄畏まるのは……。
そこ迄考えると、思い浮かぶのは相当上という地位なのだろう事がわかったのだが……。
やはり、そんな疑問も彼の着る蛍光ブルーの忍者服が邪魔をするので、やはり色眼鏡で見てしまうのは仕方の無い事だろう。
さて、一通り挨拶も済んだところで本題のはなしを切り出したのだが……。
「黒竜の鱗ですか? 結構大量に所持してるのであげましょうか? いやぁ、昔何かで使えないかと散々通ったんで、鱗だけで倉庫が軋む程ありましてね? 処分にも困っていたので持って帰ってくれると助かります」
と、中々にぶっとんだ言葉が返ってきてしまい、更に驚く事になった。
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