第15話 原点回帰
糸森家に改めて入ると、昼食を食べたお店は裏側にあった。
元々あった家の庭に先輩のお祖父さんが、二階建てのお店を出したんだそうで、お店の一階厨房と糸森家の一階が繋がっていた。
お店は一階がたこ焼き屋さんで、二階がお好み屋さんになっており、二階のお好み屋さんの厨房からも糸森家の二階へと行けるようだ。
私がさっちゃんとお好み焼きを食べた時は、三階にあるさっちゃんの部屋で食べたので、分からなかったのも仕方の無い話だよね? といったら、それ以前の問題だと返された。
うーん。 だって仕方がない話じゃないですか? 遊んだ記憶も話した記憶も無いんですよ?
「さちが出掛けるときは必ず俺が付いて行ってんだから、覚えてない方がおかしいだろ」
そう先輩は言うけれど……。
──居たか? 居たのか? そういえばさっちゃんが帰る時誰かと手を繋いでいた様な? やはり記憶には無い。
さっちゃんは部屋からアルバムを取って来て見せてくれた。
最初に見せてくれた写真は、祭りの日に撮った写真だった。 初めてお揃いの浴衣着せてもらってはしゃいだからおぼえてる。 確かに私とさっちゃんは写ってるが、先輩の姿は無い。
「先輩いなく無いですか?」
「居るよ! ここ! ほら、よく見て! ここ! この黒い影が俺だよ!」
先輩が指をさす場所には確かに影が見える。 だが……。
「分かるかっ! こんなもん!」
「まぁ、確かに……その影がお兄ちゃんって言われないと私でも分からないわ」
さっちゃんも同意見だった。 良かった。
その後もいろんな場面の写真が撮られているが、どれもこれも微妙な写真ばかり。 唯一まともな写真をあげるなら、半分見切れているが辛うじて顔の判別ができる程度で、顔を知ってないと、まず分からない。
「ほら、やっぱり分かりませんよ」
「くぅ………」
何故か悔しそうな先輩と、慈愛に満ちた顔で拳を握って兄である先輩を無言で励ましてるさっちゃん。
「さち、うるさい……」
「何も言ってないでしょ?」
「良いから、放っといてくれ」
「はぁーい……」
──テレパシーで通じ合ってんのか? 仲良いな、君達。
二人のよく分からない会話は置いとくとして、取り敢えず先輩の呼び名から変えるか? と、私は私で違う事を考えていた。
「さち兄にする?」
「……何がだ」
「先輩の呼び名」
「普通に今まで通りでお願いします……」
「そうですか? さち兄先輩とか如何ですか?」
「今まで通りで……」
「分かりました先輩」
(望み薄いなぁ……)ポソ
さっちゃんが何か呟いたけど聞こえなかった。
大した事ではないのだろう。
それよりもだ。
「私は原点に帰ってみようと思うんです」
「は? 何突然」
「ああ、いえね? 今日先輩を殺めそうになってしまった訳じゃないですか?」
「ああ、まぁ……気にしなくても良いぞ? あれは俺の鍛錬不足だ多分」
「いえ、そうでは無くてですね?」
私は如何言えばよいのかしばし考える。
小さい頃から夢みていた事は探索者だ。 今でも少なからず、夢見ている。 なら、如何すべきか。
それは、ウダウダ頭で考えてないで、昔の……それこそ小学校時代に戻った気持ちで、我武者羅に頑張ればいいじゃないか!だ。
「そうです! 頭の良い人には頭で考えてもらって、私は私で体で考えれば良いのです!」
「体で答えれるお前がすごいと思うぞ? 腹話術的な?」
自分の語彙力のなさに苛ついて来ますが、良いのです! 自分さえわかっていれば、それで!
この日を境に私は、考えるのを辞めます。
宿題? そんなもんは最終日に徹夜してやるもんです!
「と言う訳で先輩、明日からまた改めてお願いしますね?」
「はぁ、何か自分だけで完結したようで良かった、な? だけどな? 装備てか、服を何とかしないとダンジョンは潜らねーからな?」
「……ですよねー」
私のやる気が萎んでいくのが分かります。 ですが、何もダンジョンだけが鍛錬ではない筈です。
ダンジョンに潜らないのであれば、
そう考えると、私のやる気は再び燃え上がるのでした。
よし! また明日から頑張ろう!
そうだ! 兄上に連絡して特注服を作って貰おう! そうだな……昔は30キロの砂袋付きの服だったから、高校生になったのだから、二倍……いや!三倍の九十キロでも行ける筈!
そう考えたら兄上のメールに即メールした。
━━━━
御兄様、暑さも益々増して厳しい夏をお過ごしかと存じますが、如何お過ごしでしょうか? 御兄様なら多少溶けて失くなった方が体にも良い様に思いますが、無理はなさらないで下さいね? 徐々に溶かせばきっと細く逞しい体に成れるかと存じます。
さて、この度メールを送らせて頂いたのは、他でもありません。
私、この度原点回帰致しますれば、御兄様に、是非作って欲しい服が御座いまして、幼少の頃の様な服に縫い付ける錘付きの服を作っては頂けないでしょうか? より良いお返事をお待ちしております。 晶
PS 黒の忍者服はお持ちではないですか?
━━━━━
よし、送信っと。
私は兄上にメールを書いて送ると、さっちゃんの部屋へと向かい、思い出話に花を咲かせ、きっちり夜20時が過ぎるまで居させて貰ってから、おじさんに送ってもらった。
先輩も一緒に行きたがったが、丁寧に断ってから
「あ、先輩! 暫く特訓するんで、先輩は部活頑張ってくださいね! それじゃ、また連絡します!」
そう言って扉を閉めて、車を出してもらった。
「えっ……ちょ…え?」
先輩はよく分からない顔をしていたが、マラソンは付き添いは要らないし、自分のペースで走りたい私としては、先輩には部活もあるのでそっちに集中して欲しかったので、そう伝えたのだが。
「悪いね、晶ちゃん。 うちの子色々鈍くさいけど、これからも宜しく頼むね」
そうおじさんに言われてしまった。
とりあえず私は、「はい」としか言えなかったが、うちの子と言うとさっちゃんの事だろうか? と、思ってしまう自分がいた。
やはり直ぐには先輩を幼馴染枠には入れれそうにないようだ。
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