第13話 毎週火曜はスライム湧き湧き祭り②



 私は今、スパルタ式常識クイズを先輩に教えている。 一つの斬撃をあんな必死に避けるなんて大袈裟だなぁと思いながら。


 祖父ならふと振りで三発くらいの斬撃を飛ばしてくる。


 それを私は小学校3年生の後半から、中学を卒業するまで受け続けたのだ。


 祖父曰く、『勉強は出来なくても良いが、礼儀や一般的常識は知る必要がある。 それをこれからお前に教えてやろう』って、事だった。


 私は小学校へと上がると、ランドセルの中に砂袋を入れて登校し、ランドセルを置いたら窓から外に飛び出して、授業が終わるまで校庭を走り回る子だった。


 その内、ランドセルから教科書や筆箱は消えて、砂袋だけになっていった。 行き帰りだけは負荷をかけて鍛錬出来るのに、ランドセルを置くと鍛錬にならない為、それを補う為に校庭を走っていた。

 毎日毎日同じ事を繰り返すうちに、先生方も私を放置する様になり、誰も叱らなくなっていった。


 その後2年生になり、教室が一階から二階になっても、私のルーティーンは変わる事なく行われた。


 ランドセルを置いたら窓から飛び出して校庭で走り、授業が全て終わったら再び窓から戻ってランドセルを背負って帰る。 勿論給食の時間は戻ってちゃんと給食室で自分の教室の分から自分の分を取り出して先に食べていた。


 三年生になっても変わらない行動をする私を流石に担任も見逃せなくなったのか、一度話し掛けて来たが私は無視して三階の教室の窓から飛び出して校庭を走っていた。


 勿論授業が終われば3階の窓を目指してロッククライミングで戻る。


 夏休みが終わって一月余り過ぎた頃、授業参観が開催された。


 その日は母も父も休みが取れたそうで、初めて参加した日だった。


 私は私で何時もの様に窓から飛び出して授業参観でも関係無く校庭を走り回っていたが、その行動に両親が驚き、担任交えて話し合いが行われ、私の奇行ともいえる行動が両親達に告げられた。

 当然の様に怒られるかと思っていたが、父は勉強は出来なくても構わないが、窓から飛び出したりするのを辞める様に言ってきた。


 私としては、昇降口まで戻る手間を省く為に窓から飛び出していたので、断った。

 そうしたら母も同じ様に説得を始めたが、私は駄々っ子の様に床にへばりついて抵抗した。


 何度説得されても言う事を聞かなかった為に、祖父がやって来た。


 祖父の後ろには何故か兄も居た。

 そしてスパルタ式が次の日から始まった。 付いてきた兄は、ランドセルの砂袋を私のすべての服に取り付け、ランドセルを置いても負荷がかかる様に施した。 コレのお陰で、一度三階の窓から飛び出した時に、怪我を負った。 それからは昇降口から外に出て、走り終わったら昇降口から教室に戻るようになった。


 祖父が私に教育を始めた日から青痣を作らない日は無かった。

 です・ます調で話す様に強要され、間違った受け答えをすれば木刀が容赦無く私を打つからだ。

 だがその内、私は祖父の木刀を避ける様になった。ブンブン音を鳴らしながら振り回される木刀をことごとく避ける日々が続くと、今度は其処に不可視の斬撃を混ぜる様になった。 しかしそれも日を追うごとに避けるようになると、全ての攻撃が斬撃に変わっていった。しかし其れも避けれる様になると、祖父は再び兄を召喚して、魔法を掛ける様に伝えると、兄は重力操作グラビティを使って私の回避力を押さえ込み、そこに祖父の斬撃が飛んで来るようになった。 これには私も対処が出来ず、中学2年生になる迄すべて避ける事は出来なかった。 そして其れさえも避けれる様になると、祖父は私に木刀を手渡し、祖父に攻撃しながら教育を行った。 祖父は今迄ずっと手加減をしていてくれてた様で、私が攻撃出来るようになってから、手加減無く攻撃して来るようになって、私の身体に再び青痣が付くようになった。


 中学三年生も終わりを迎えた日、私が不可視の斬撃を放てるようになったある日、私の教育は唐突に終わりを迎えた。

 ひと振りで一撃しか斬撃を飛ばせないというのに、祖父は教育を辞めてしまったのだ。 後は自分を鍛えろとか言って。 あれから鍛錬を欠かさず行っているが、未だに一撃しか打てないでいる。


 だからね? 先輩。

 そんな必死な顔して避ける程でも無いのよ。

 そう思っていても私の口からそれを告げる事は出来ない。 何故なら集中して木刀を振らなければ斬撃が飛ばせないからだ。


 だから先輩が膝を付いて動けなくなってても気付けなかった。

 先輩に当てるつもりで放った斬撃は、力尽きて動けない先輩を容赦無く襲おうとしていた。


 ──あ、死んだかも


 そう思ったが時既に遅く、私の放った斬撃は先輩に向かって飛んでいく。 私はただそれを眺めている事しか出来なかった。


 しかし、その斬撃は先輩に辿り着く前に霧散した。

 先輩の前にはペッタンおじさんが居たのだ。 左手で私の斬撃を握りつぶして霧散させると、私に視線を向ける。 私はその顔を見て祖父を思い浮かべていた。


 「お嬢さん、毎週火曜日はスライム湧き湧き祭りなんですよ」


 そう私に話し掛けながらペッタンおじさんは近付いてくる。


 おじさんをよく見ると、右の脇に私の持ってる木刀によく似た物を持っているのがわかる。


 ──あれ。 私の木刀は?


 私が手に持ってる筈の木刀は、私の手を離れて無くなっていることに気が付く。


 つまり、私の木刀はペッタンおじさんが脇に挟んでいる奴で間違いないだろう。 いつの間に取られたのか、理解出来ない私は呆然と近付いてくるおじさんを見ていた。


 「ほら、周りをよく見てご覧? 家族連れが多いと思わないかい?」


 そう話しかけられて、私はあたりを見回すと、確かに普段より多くの家族連れが居て、手に手に棒を持っているのに気が付いた。


 屋台の商品も比較的子供の好きそうな甘いお菓子が多く陳列されている。


 どうやら本当に祭りが開催されていたようだ。


 「危険な行動は、謹んでくれると有り難い」そう言いながら、ペッタンおじさんは私に木刀を返し、話を続ける。


 「君の力量なら中層くらいまで行けると思うよ? だから、一階層で武器を振り回すのはやめてくださいね? ああ、スライム退治をするなら歓迎だけど、古武術は使用禁止ね!」


 そう言って笑う。


 私は咄嗟に頭を下げて愚行を恥じて謝った。


 そして頭を上げると、そこにはもうペッタンおじさんは居らず、ペッタンペッタンと子気味の良い音を奏でながら屋台の周りに居たスライムを潰し歩いていく背中しか見えなかった。


 私はその背中を見送ったあと、集まってた家族連れの皆さんに頭を下げて謝り、屋台の方々にも謝って回った後、先輩を引き摺ってダンジョンから出た。


 

 

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