第11話 子供服に作業着は無い
ワークショップに着いて既に1時間が過ぎた。
忍者服を選ぶだけで何故?っと、思うだろう? でも、デザインとサイズが合わないのだから仕方が無い。
普通にSサイズを選んでも、丈が長いとか裾が長いとか、そもそも男性用しか選んでないので、当然の様に腰紐が胸まで来るとかで、色々合わないのだ。
「申し訳ありません、これ以上小さい物は当店には……」
そう言われてしまえば帰るしかない。
「別にくノ一用でも良いと思いますよ?」
そう言ったのだが、先輩がこれに大反対。
「駄目だ! 露出が多過ぎる! 防御力が減るのになんでへそ出しなんだよ! 意味わからん!」
「別に先輩は着ないんですし、そこまで拘る必要ないじゃないですか? 私は気にしませんよ?」
「俺が気にすんだよ!」
このやり取りで延々と店内を廻り、結局何も買えずに店を出る。
「そういえばお前の着てるその服、
「これですか? ……デパートですけど」
「デパートならお前のサイズがあんの? 作業着も? ならそっち行こう」
──
言い出し辛いくて、結局何も言えず駅前にあるデパートへとやって来た。
エレベーターで上がる中、何故か無言。 私からも特に何も話さなかった。
チーン……という音がして、扉が開いてエレベーターを降りる。
「……」
「……何で無言なんですか?」
先輩は店内を見回すと無言になったまま、マネキンが着ている服を見て、私を見て、またマネキンを見てからため息を吐いた。
新宿駅前の24時間営業の丸愛デパートの五階にあるのは、ワンフロワぶち抜きで一店舗しかない服屋で、主な商品は子供服。
勿論ディスプレイに飾ってあるのも子供服。 小さいマネキンが着てる服も子供服である。
ここは、子供服専門店チンドレンファームという名のお店である。
幼稚園児からダンジョンに遊びに行く様になった昨今。
当然可愛い孫に着せる防護服なんてのも流行るようになり、レンタルで借りる家もあれば、買う家もある。
そして此処は買う人専用の高級子供服を売ってる店なのである。
小さな頃から身体を鍛えていた弊害で、私の身長は140cmから余り伸びなくなった。
大人服売り場で私サイズの服も勿論売っているが、数は少ない。 探すだけ時間の浪費が激しいので、私は真っ直ぐ子供服売り場で買うようになった。
大人っぽい服もあるし、防御力の高い防具もあるし、意外と使い勝手は良いのだが、子供用防具の値段が子供っぽく無い事でも有名だったりする。
金持ってる裕福な家で、その財布を握るのはご老人である。
孫の顔色を伺えは、欲しそうにして瞳を輝かせている。 そんな顔を見れば何とかしてやりたい! 婆ちゃん爺ちゃんありがとう!って、感謝をされたい御老人達のがま口は開きっぱなしになる事請け合い。
当然安全を優先する為に使われる素材は高級素材がメインになる。
子供用なら使用する量も少いので、希少な金属でフルアーマーなんてのも作っちゃったり、動け無い鉄屑ではただの置物にしかならないので、当然羽のように軽い金属といえば、ミスリルだ。
それよりも軽い金属を探せば聖魔銀を使ったフルアーマーなんてのもあり、そこらで買う子供服より桁の数が違くなる。
そして今回私の服を買うに当たって支払うのは先輩である。
無理を言って連れてきてるのだから、払うのは当然なのだそうだ。
「流石にこの店で買って貰うのは忍びないので、買ってくれなくていいですよ?」
そう言ったのに、何故か頑なに払うの一点張り。
──先輩ってこんなに頑固な人だったっけ? 中学時代でもそんなに付き合いなかったから知らないけど……。
取り敢えずサッサと忍者服探そうぜって事になり、奥へ奥へと歩んでる。
因みにこの
支払ったのは祖父である。
──この店の忍者服か……。
私は幼い日々に観た、懐かしい番組を思い出していた。
その番組は戦隊物で、ダンジョン内に巣食う悪なる魔獣を倒し、裏ボス設定のブラックドラゴン(下層ボス)を倒すという結構本格的な番組だった。
勿論配役は現役のゴールド+5の探索者。
その名も、忍者戦隊五六人ジャー。
駄洒落かよ!っと、今ならツッコミを入れるところだけど、本格的な戦闘シーンに加えて、初心者〜中級探索者にとって必要な教育を上手く取り込み、老若男女楽しめる番組だった。
蛍光色で目に優しくない5色の忍者服を纏い、トップランカーが大活躍するんだ。 そんなの誰でも観たら大興奮するよね? スタントマンなんて勿論使っていない、ガチンコバトルだ。
国民的番組として、今尚人気は衰えていない。
当然憧れる子供も多く、この店でもよく売れている。
ただし、素材も本格的で妥協しなかった為、値段に、ツッコむ客が続出した一品になっている。
蛍光ピンク 紅ドラゴンの鱗をふんだんに使い、これを着ると回復の魔法が使える様になる。
蛍光イエロー ゴールドドラゴンの鱗をふんだんに使い、これを着ると雷の魔法も撃てると大評判。
蛍光レッド 炎竜と名高いドラゴンの鱗をふんだんに使い、これを着ると炎系の魔法が使える為、冬場のアイドルに慣れる。
蛍光ブルー アイスドラゴンの鱗をふんだんに使い、これを着ると氷系の魔法が使える為、夏場には人気者になれる。
蛍光グリーン グリーンドラゴンの鱗をふんだんに使い、樹木を操れるようになる為、芋掘りに行けば大活躍できて、お母さんも大喜び!
「目がチカチカしますね……」
「俺は値段でチカチカするよ……」
私達は目をシパシパさせて、ポージングを決めてる五体のマネキンから遠ざかる事にした。
因みに値段はどれを買っても同じ値段で、一着ニ千万円。
希少なドラゴン種の鱗を加工して糸にして布にして作ってある為、その値段だったりする。
全て下層のボス部屋だったりエリアボスでしか採れない素材だからだ。
子供服だからこそ作れた一品で、どれも受注生産。
「流石にアレは無理……」
「私だって蛍光色を身に纏いたくないですよ! ただ、裏ボス的な存在の艶消しブラックの服が飾って無かったのは残念でした」
「あー。 懐かしいな……ラストシーンで配役のゴールドランクが病院送りにされた相手だろ? 確か……」
「そうです! まさか素材不足で今は作れないなんて……」
「そりゃしかたねーだろ? 日本の最到達階層に居たボスだし? 黒龍を倒しに行く探索者もいないんだから」
「ですよねー……」
「はぁ、帰るか……」
二人はため息を吐いた後、何も買わずにデパートを後にした。
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