第10話 Side:糸盛秀雄
俺の名前は
探索者養成学校の二学年だ。
幼馴染になった経緯は、俺の爺さんと井道兄弟がダンジョンでパーティを組む仲だったから。
井道兄弟の弟が行方不明になるまで、三人でダンジョンに挑んでいたのだと、よく懐かしそうに爺さんが話してくれるので覚えてる。
井道の爺さんは、弟さんが継ぐはずだった道場を継いで、後世にその技術を伝えて教え広める役を請け負う為に探索者は引退したらしい。
で、そこの門下生だった俺の父親と晶の父親の
同じ小学校とはいえ、一学年違うと交流はあまり出来なくて、遊ぶ事も少なくなっていったけど、晶は兎に角目立つやつだった。
勉強そっちのけで体力だけは父親譲りの体力向上スキルでガンガン上げていくもんだから、俺は良く比較されて発破をかけられ、負け時と頑張る様になった。
そのお陰で中学入ったらトップクラスの力も得たのに、僅か一年で追い越され、悔しくて頑張ってる内に俺の名前を晶が覚えるまでに成った。
ようやく認識されたは良いが、油断してると置いて行かれそうになるので、本当に大変だった。
俺のスキルは忍者だった為に、生半可の努力では足りず、晶の祖父にも何度か教えを請い、何とか並べる様になっていたが、このままだと置いて行かれるのは明白だったので、高校入学後に受けられる最後のスキルで挽回出来る様に祈ったもんだ。
そのお陰か如何か分からないが、忍術スキルが貰えたので、晶が高校に入ってくるまでの間に、何とか差を開けて置きたかったので、更に努力を重ねた結果、この学校でもトップクラスを維持出来る様になった。
晶が高校入学し、直ぐにも追い付いて来るかと思っていたが、全く音沙汰が無いのを不思議に思って調べたら、ラストスキルが忍者で探索者になる事を諦めたと言う事が分かった。
━━昔、祖父や父親の時代の主流は剣技系と体力向上で個人技を磨き、より深い深層へと向かうスタイルが多かった。
しかし時代が進むに連れて、より深い層へと潜らずに、近場の階層で取れる魔石を大量に確保するのが一番良い稼ぎになる事が判明し、魔石の需要が高まった事も後押しされて、効率重視へと置き換わり、魔術や妖術使いがランキングでトップに上がる様になっていた事も原因だったかも知れない。
体力向上スキルを限界近くまで鍛えてる筈の晶なら、忍者スキルを鍛えていけばトップクラスに成れる筈だ、だから俺は何の心配もして居なかったので正直驚いた。
学年が違うと中々話し掛ける機会も、訪れずに夏休みへと入って数日。
俺は部活を休んで最近頻繁に一階層に訪れてる晶を探した。
何をしてるのか知らないが、噂通り晶はベンチに座っていた。
様子が少しおかしい事は直ぐに分かったが、俺は如何やって声を掛けたら良いのか分からずに、声が裏返ってしまう。
それを女装してると勘違いしたのか、こっちを禄に見ないで罵倒された。
罵倒される事には慣れていたが、もっと辛辣で心まで粉砕していく感じでは無かったので安心すると共に、不安にも成ったので取り敢えず落ち着かせる為に家まで送る事にした。
──幻覚……ねぇ。 こいつこんなに弱かったっけ?
常に俺の前を走る晶は、中学時代はもっと覇気があり、強く逞しいイメージが強く残っていた為、弱さが此処まで出てる姿に少なからずショックを受けていた。
で、ついつい軽口を叩いて思っても居ない言葉が出てしまったが、正直後悔した。
目にも止まらない速さで短剣を抜くと同時に、さっきまで足元も覚束無いほどヨロヨロとしてたのに、素早く俺に接敵して、喉に刃を当てられたのだ。
俺だって此処一年遊んでいたわけじゃない。中学時代より更に努力して体術や剣術も鍛えて来たし、素早く動く相手にも追い付いて倒して来たから、それなりに動体視力も上がっていた。
それなのに、俺は
──こんな動きができる奴が探索者を諦めるだと⁉ 馬鹿は休み休み言えってんだ!
だから俺は、こいつに分からせてやらなきゃと思い、パーティに誘って半ば強制的に組ませる事にした。
多少嫌がっては居たが、嬉しそうな顔を覗かせていたので、誘って良かったと思った。
次の日の朝、俺は兼光さんが出掛けるのを待ってから晶の家を尋ねる予定で自宅の前まで来ていたが、警邏中の警官に職質された。
俺の格好は土木作業員風にしてあるので、見逃されると思っていたが妙に絡んでくる警官だった。
身分証明書であるギルドカードを見せ、ここで何をしているのかと聞かれたので、バイトで現場に行く為に車を待っていると答える。
──こいつ……。禄にギルドカードすら見てねーんだけど、何なんだ?
俺は警官の不可解な行動に妙な胸騒ぎがしたので、どこの管轄なのか聞いた。
するとコイツは悪振れるでもなくあっさりと渋谷ダンジョン周辺だと答えやがった。
渋谷ダンジョン周辺に配置されてる警官は、殆どが探索者を引退した者達で構成されていて、ダンジョンから魔物が出て来た時に対処するのが仕事である。
つまり、こんな住宅地を巡回する仕事は無い。
益々怪しさが溢れて来たので名前聞こうとしたが、何かを察したのか去ってしまった。
──不審者だな。 要注意人物として、注意しておこう。
離れていく警官の背中が見えなくなるまで睨み、奴の気配を覚える。
そんな事をしていると、2階の窓に晶の気配がしたので、手を振って挨拶すると、直ぐに出てきたのだが……。
何でこいつ薄っぺらい服を着てるんだ? 何故それをチョイスした? 和服みたいで忍者服にでも似せたのか? インナーや篭手などの装備はアホなくらい上等なのにと、チグハグな服装に呆れていると、
コイツはアレだ。
友達が居ないから得られる情報が極端に少ないんだ。
コイツには先ず基本的な探索者の常識から教える必要がありそうだと判断した。
「じゃあ、行くか」
「電車でダンジョンに行くのですか? 私あまり持ち合わせ無いんですけど?」
電車賃くらい幾らでも払ってやれるが、今は……
「ワークショップに行くから電車は乗らん」
「ワークショップ? 何しに?」
「お前の服を買いにいくんだよ! そんな布切れでダンジョンなんかに行かせてられるか! ふざけんな!」
「当たらなきゃ問題ないですし、服なんて買うお金持ってませんよ? ソロで三階層までなら、ノーダメージで走破出来ますし、四層以降でも先輩がパートナーなら無傷は確定ですよ?」
──コイツはとんでも無い事をサラッと言いやがるな……。
一学年で二階層までなら授業でも潜るので、ソロでも対処出来るレベルの魔物しか出ないが、三階層からはローウルフが混ざってくる。 ローウルフは見て来れこそ弱そうに見えるが、素早さが高い為、団体で対処するのが基本中の基本何だが……。
……それをソロで無傷とか。
二学年くらいに成ればソロも可能だが、ダンジョン潜って僅か半年の一学年で出来る奴は、ほぼ居ない。
──色々バグってんだけど何で諦める方向に向かってんだコイツ……。
やはり友達が居ないボッチだから比べられる様な奴が居ないからか……。
「……先輩? なんで、可哀想な子犬でも見てる様な顔を私に向けるんですか? 不愉快なんで殴っても構いませんよね?」
「構うわ! はぁ……。 馬鹿言ってないで早く後ろに乗れよ」
俺はそう言って隠して置いたバイクに跨ると、ヘルメットを晶に渡す。
「走っていくんじゃ無いんですか? ワークショップまでなら片道30キロくらいですよ?」
「体力馬鹿なお前には余裕な距離だろうけど、俺は生憎一般人なんだよ。 あんな距離は走れねーからな? いいから乗れよ。 日が昇っちまうぞ?」
そう促して無理矢理乗せると、バイクを走らせて、国道へと向かった。
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