第9話 作務衣《さむえ》は作業服なんですけど?



 ガチャっと、深夜二時半になると必ず私の部屋の扉が開く。


 父が出掛ける前に行ってる儀式みたいなものだそうです。


 私がちゃんとてるか確認する為におこなってると思ってたけど、一応ギルド職員としてダンジョンに詰めて居る為、有事の際は責任者として最前線に向かう場合があり、生命を落とす日もあるかも知れないから、という事らしいです。


 げんかつぎとも言っているので、正直良く分からないですが……。


 まぁ、別に良からぬ事をしている訳ではないので、私としても寝姿を見てモチベがあがるなら良いよー、と許してます。


 私にとっては目覚まし代わりにしてるのだけど、一応内緒にしてます。





 長い一日となった夏休み四日目も終わり、今日で五日目に突入した訳ですが、今日から私クラスメイト達の様にパーティを組んでのレベル上げに取り組む事になりました。


 別に楽しみにしていたって訳ではないのですが、部屋の扉が開く前には起きてしまいました。

 ワクワクくらいはしてると思います。 でも、決して楽しみにしてた訳ではないです。 相手が相手ですからね……。


 組んでくれる相手は同級生では無いので、授業が始まる二学期の探索授業では、ソロに戻る事になると思いますから、飽く迄も臨時パーティになります。


 それでも、パーティを組んでの探索は、私にとって貴重な体験になる事だと確信はしてます。


 そう思うだけで、私は無意識に鼻歌を唄いながら出立の準備をしてました。


 別に相手が中学からの先輩だから楽しみにしてる訳ではないので、勘違いはしない様に!っと、鏡に映る自分に言い含める。


 自己暗示という奴に近いですかね。

 幾ら見知った相手とはいえ、なるべく気安く話し掛けたりしない様に釘を差して置く為です。


 一応教えを請う形で関わるのですから、当然ですね。


 初めての一人以上での探索だからといって、浮かれない様に注意してるだけなのです。


 何時もは手櫛てぐしで適当に整えてる髪の毛も、丁寧にブラシを掛けて整えます。


 私の髪の長さは特に長い訳でも極端に短い訳でもなく、肩の上に当たるか当たらないかくらいにしています。


 前髪も、目に髪の先が刺さらない様に適度な長さをキープしてます。


 前髪を伸ばしすぎると、いざという時に邪魔になる可能性もある為、伸ばしてる人は探索者にはあまり居ないです。

 

 肩くらいまで伸ばせば、狩りで邪魔でも後ろで結べば解決するし、態々美容院に通って整える程、髪型に拘りがないだけかも知れないですけど。


 まぁだからといって、身嗜みは重要な事ですから? 私だってたまにはブラシくらい使います。


 化粧品の類は扱った事がないので、リップ程度しかしてません。


 そろそろ二時半になりますね。

 父の仕事場は千葉県ギルドなので、車で出勤し、高速に乗って向かいます。


 渋谷にダンジョンが出来てから、都内の土地の価値は暴落したそうで、結構安く家を買えたそうです。


 逆に都内のダンジョンの隣の県が上がってしまったらしく、裕福な家庭とか企業は埼玉、神奈川、千葉、八王子等に散っていったそうです。

 まぁ、その後千葉と埼玉にもダンジョンが出来たので、探索者ギルドが居抜きのビルを買い取ったらしいですけど、詳細はあまり詳しくありませんので割愛します。


 探索者にとってはダンジョンの近くに住める様に成ったので、喜んでますけどね。


 さて、先輩は刃のあるナイフは持ってくるなと言ってましたが、不安なので持っていきます。

 こればっかりは手放せません。

 そもそもメイン武器が木刀何ですから、不安を払拭する為にもナイフは必要ですよね。


 因みに私の警棒の元は、祖父がコレクションしてた一つを私にくれた長物の木刀です。 それを私が扱いやすい様に加工した物を持ち歩いてます。


 高校入学後、忍者になったと伝えた時、祖父は喜んで剣術を教えようとしてくれたんですが、祖父の教えてる剣術って長物を用いた剣なので、私には向いてなかったんですよ。 でも、一応目が出ない事も無いから、剣術も教えるし、その木刀も持っとけって事で受け取ったんですね? でも、握りやすさも硬さも丁度良く、その日の内に加工して貰って持って帰ってきたら、祖父が短くなった木刀を見た瞬間、膝から崩れ落ちてまして、祖父の剣術を教えるのは諦めたようでした。


 ただ基本は変わらないのだと言って、父の居ない時間に教えに来てたのですが、深夜からだったんてすよ。

 休み前だし普通に私は寝てる時間なので、完全に諦めたようでした。


 それでも素振りはしてますけどね。

 ちゃんと誰かに師事された方が良いとは聞くんですけどね。短剣術を習える場所って少ないみたいで、近辺では見つからなかったんです。 なので、保留中ですね。


武器は準備出来たので、次は防具です。

 基本的に作務衣を着てます。 その下にインナー代わりに着ている長袖のカーボン製ナノテクノロジーの防刃耐性、防打耐性、防魔耐性の機能が付与されてるのを着てます。

 これは入学祝いで父からの貰いました。 軽くて丈夫なので愛用品です。

 母からは脛と手首から肘に巻くプロテクターです。コレもカーボン製ナノテクノロジーなので、父の贈り物と同じ耐性が付いています。

 鉄板入りの地下足袋は兄からの贈り物です。


 12歳離れてる兄は既に社会人なので、独り暮らしをしています。 

 お金に余裕がないからと成長にあわせて安く買い換えられる物にしたそうです。


 家族の愛情を一心に受けてる私は果報者ですね。 なるべく早く将来の夢を見付けますので、もう少し見守っていてください。


 さて、準備は一応整ったのですが、ここから気配だけ消します。

 不審者警官対策です。


 昨日の今日ですからね、用心に越した事はありません。


 ん……。先輩も到着したようですね……。2階の窓からカーテンをソーッとずらして確認しました所……何やら不審者警官から職質を受けているみたいですね……って居たんですねぇあの不審者警官


 これは通報した方が良いのかなぁ……。

 先輩に相談してみよ……。


 ──ハッ……。不安要素しかない昨日の変な不審者警官のお陰でいつもの調子で言葉使いが戻ってしまった……。

 先輩と会話する予行演習してたのに……。


 これは許すまじっ! 不審者に鉄槌を! 祖父にメールだ!


 ……って事でメールをしたんだけど、肝心の不審者の名前を知らない事に気付かない晶ちゃんでした。


 ──ぬかったなぁ……。


 ん? 不審者が帰ってく……。


 ……何か先輩が手招いてるんで出掛けましょうかね。


 四時前だけど大丈夫……なのかな?


 不安に思いながら玄関を開けると、朝の挨拶もソコソコに、服装にダメ出しされたんですけど……。


 「作務衣は立派な作業服です! 知らないんですかっ!?」


 「うん、知らん。 つか、お前忍者だろ? 忍者服買ってねーの?」


 ──あったんかーい!


 と、言う訳で初パーティは一路24時間営業のワークショップへと向かう事が決定しました。


 ダンジョン?

 明日に持ち越しだそうです……(シクシク)


 


 


 

 

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