第3話 早朝3時は深夜らしい



 夏休み三日目の朝、私は学校で使っている革鎧を厚手の作務衣の上から装備して、脚にもプロテクターを付けて家を出る。


 履いてるのは鉄板入りの地下足袋です。


 時計の針は早朝3時。


 探索者仮免許中の学生である私には、刃物を装備してはいけない決まりがあるので、武器は警棒です。


 護身用の刃渡り十cmのナイフと解体用のナイフは持ってても良いので、腰のベルトに二本差しで付けてます。


 そもそも忍者に装備出来るのは刃渡り30cmくらいの短刀で、それ以上長いと上手く扱えないってんだから、不遇過ぎるよね? 火薬も扱えないから煙幕も使えない。 盾の代わりに警棒を使うのだけど、護身用ナイフで狩れるのはせいぜいニ、三階層に居るゴブリンとローウルフくらい。


 ゴブリンは緑色した色欲魔で有名なアイツだ。 首が細いし胸板も薄いので、護身用ナイフでも刃は通るし、魔石は無いけど通常クエストなので、討伐部位が有れば金になる。


 ローウルフと言うのは、狼の子供みたいな奴で、大型犬の子犬くらいの大きさだから、これも刃が通るから私でも倒せるし、魔石は出ないけど肉と毛皮が柔らかいので、そこそこの値段で買い取ってくれる。


 露店で売ってる肉串の材料がローウルフだったりするので、それなりに需要が高く値崩れもしにくいし、私の様な仮免許持ちには優しいシステムになってて、本当に有り難いことで。


 今日は人間観察しないのか?


 いやー、昨晩帰ったらお小遣い止められちゃって……。


 夏休みで入り用なのに小遣いないのはキツイから、こうして朝も早くから出掛ける訳ですよ。


 始発電車は止まってても、自転車で行くから問題無し。


 では、行ってきます!


 って、数分もしない内に補導されたんですが……。


 早朝3時は深夜3時だと言うのは、本当ですか?


 警察官のアナタは起きてたから深夜3時だと感じるでしょうけど、私は夜寝てからの早朝なのですから、早朝3時で間違ってませんよね?っと、伝えたところ。


 未成年者は早朝4時から補導されない時間帯らしいです……。


 つまり、補導されてからお説教されて、言い訳からの言い返されーので、今現在4時なんで、もう行っていいですか?


 え? 住所書け? 個人保護法案って知ってますか? え? 無くなった? 分かりましたー書きますよー書けばいいんでしょ書けば。


 ──家に来たらストーカーされてるって言って誤魔化そう。


 え? 電話も? すいません家貧乏なので電話ないんです……(シクシク)。


 やっと開放されたけど4時過ぎてるし……。 くっ……早くオトナになりたい。


 そんなアクシデントを経てやって来ました渋谷ダンジョン!


 って、昨日も来てましたね、はい。


 さぁ、行きましょうか。 二階層へ!


 階段降ると其処は岩がゴツゴツとした洞窟みたいな場所です。


 既に数組の学生らしき団体が居ますね……。 出遅れたお陰でリポップすら間に合わないくらいの勢いで狩り尽くされてます……。


 おのれ警察め……。まぁ、彼らにとっては『また養成学校の奴等かよ!』って、感じでしたけどね。


 私の様な血気盛んな若人が通うのが養成学校なので、最早夏の風物詩みたいなもんです。 血眼になって補導するのは辞めてほしいもんですね。 本当に……。


 さて、狩る獲物が居ないんじゃ二階層も一階層と変わらない場所なので、サクサクと三階層へ行きます。


 しかし、団体さん多過ぎじゃないですか? まぁ、夏休みで朝から狩れるから張り切ってるのは分かりますけども……。

 学生なんだから勉強しなさいよ!


 え? 私も学生じゃないのか?


 良いのですよ、私は勉強出来ないんですから。 勉強は勉強出来る子に任せるのが、私のスタイルなんです!


 はぁ……。


 三階層も似たりよったりで団体さんばっかりですねぇ……。


 4階層……うーん。

 4階層からは駆け出しの忍者じゃソロって厳しいんですよね。


 え? 私もパーティ組めば良い?


 組んでくれる人が居ないからソロなんですよ!


 忍者は不遇過ぎて戦力に成らないので誘われないし、誘ってもスキルを伝えただけで去られるんですよ?


 だったら、最初から誘わなければ痛くないじゃないですか! 精神的に……。


 ちらっと覗いた4階層もまた団体さんで埋まってた。


 夏休み三日目の朝、私は装備を着けたままベンチに座って人間観察を始めます。


 今日も今日とてペッタンおじさんがスライムをペッタンペッタンしてますね〜。


 なんかペッタンおじさん見てると、私も頑張らなきゃって、思うんですよね。


 延々とペッタンしてるけど、何か旨味でもあるのかなぁ。


 魔石も出ない、肉も食えない、ドロップも無いし……。


 暇だからちょっと聞いてみよう。


 そう思った私は、初めてペッタンおじさんに話しかける為、なるべくペッタンの邪魔をしない様にソーッと近付こうとしたら


 ──え。 気付かれた? え、何で?


 私は数少ない忍者スキルの気配遮断と忍び足を使っていた筈である。

 にも関わらず、気付かれた。

 確かに気配遮断も忍び足もレベルが低いからって言うのは分かるけど。


 それでも一般人には気付かれたことは一度も無い。


 あ、ペッタンおじさんは探索者だったっけ……。


 なら私くらいの気配くらい分かるよね……。 でも、なんか悔しいのでペッタンおじさんが見えなくなるまで遠く離れてから、再び気配遮断して忍び足で近づく。


 二百mほど近付けた、よし! もう少しって、二三歩進んだら振り向かれた。


 ──うへ。どんな気配察知能力してるんだあの人……。


 一度気付かれたから警戒してたのかな?


 そう思ったので、今日は何もせずにそのままベンチに座って人間観察を続けるのであった。




 

 


 

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