三月十一日 つぼみの場合

 三月になって、巨大な大福みたいだった雪が、銀色になって溶け出した。

 春休みだから友達と遊ぶのはもちろんだが、受験に向けて少しずつ勉強を始めている人が多い。私も、さっきまで図書館で勉強していたが、家に帰って休憩だ。

 今日は三月十一日。約束の日まで、あと三日。今から色々考えても意味はないが、やっぱり少し緊張。でも、もしかしたらの気持ちをあって少し楽しみ。そんな風にカレンダーとにらめっこしていたその時。

 急に床が揺れた。……地震?

 どうしよう。結構大きいけど本棚は倒れなさそうだ。じゃあ机に潜らなくても大丈夫か。そう思って座ろうとした、けど。いきなり大きな揺れが来て、バランスを崩して転んだ。

 やばい。これは大きい。机の下に潜らないと……。這って移動しようとしたとき、ガンっと隣からすごい音がした。

 何⁈ 丸く白い物体にアルミのようなものと棒、レースが見える。なにこれ。……豆電球? いやまさか。

 ベッドのわきを見てみるとスタンドライトがなかった。

 床から天井まである私のお気に入りの本棚が倒れそうでちょっと怖い。いや、それ以前にもう本がバサバサと滝のように落ちているが。

 やばい。やばいやばい。もし本棚の下敷きになったら息が出来なくて窒息する。

 はやく。はやく机の下に潜らなきゃ……。必死の思いで机にたどり着く。

 掛けてあった制服が落ちる。辞書が派手な音を立てて棚の一番上から落ちてきた。まだ揺れは続いている。……これは本当に地震か?

 今までにないくらい大きく揺れている。私は人生十七年しか生きていないが、これは今まで来たことないんじゃなかろうかと思うぐらい強い揺れだった。

 本はまだ落ち続けている。椅子も倒れる。上から変な音がした。メリメリというかミシミシというか……。たぶん天井が崩れ掛けているのだろう。うちがこんなにボロかったなんて……。机から出たら死ぬ。と思った。

 悪夢だ。夢なんだ。これは。


 しばらくして、揺れがおさまった。随分長かったように感じる。私は机の下から這い出した。

 本が床一面に散らばっていて、足の踏み場がない。それに豆電球もあるから少し危険だ。このまま中に残ってまた地震が来たら危険だし、さっきメリメリ鳴っていたから早く外に出たい。本や机を慎重に避けながら部屋の外に出る。そこから階段を使って一階に降り、玄関に着いた。お母さんたちは……と思ったところで今日は普通に会社だったと思い出し不安になる。大丈夫だろうか。何かの下敷きになんてことはないだろうか。試しに奇跡的に持っていた携帯電話で電話をかけてみる。……繋がらない。でも会社とここは遠く離れていて、連絡が取れない以上何もできない。不安なのはやまやまだが、まずは身の安全を確保しなければ。確か庭の倉庫に防災グッズがあったはず。

 外に出て庭に向かおうとすると、周りの光景が目に入った。といっても異様ではなかった。微妙に傾いている建物が何個かあるだけ。良かった。あんなに強く揺れたからもっと悲惨なことになっているかと……と思ったその時。


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