二月十四日

 放課後。

 ついに葉琉を呼び出して、体育館裏に来てもらうことに成功した。あとは葉琉が来るだけだ。

 はあ……今日は朝から緊張しっぱなしだ。早くこの胸の内を話して緊張から解放されたい。

 でも、フラれた時を想像するとやっぱり怖くて。このまま日が暮れて夜になってくれないかとも思う。実は、何度か葉琉は私の気持ちに気付いているのでは? と思うことが何回かあった。気付いているのにスルーするのは脈ナシなのかアリなのかわからない。

 そんなことをズルズルと考えているうちに、不意に後ろから、ガサっと音がした。

「おまたせ、つぼみ」

「……おそい」

 急に来られたからちょっとビックリしてテレカクシのような言葉が口から出てしまった。葉琉が私の前に立つ。

「で、話って?」

「ずっと前から伝えたいことがあるの」

 細い細い息を吸う。息が吸い辛い。外気に触れた魚みたいだ。チョコレートを持つ手が冷えていく。モーターにでもなったみたいに手が震える。胃がグルグルする。弁当なんか全部食べるんじゃなかった。世の女の子は告白する時、みんなこんな感じなんだろうか。

「……つぼみ? 大丈夫?」

「…………ずっ……ずっとまえからすきでしたつきあってくださいっ」

 受け取ってほしいから、、ずいっとそれを差し出して。息が、苦しいから、一息に思いを伝えて。あなたの顔が怖くて見れないから、頭を下げて。精一杯、六年間の思いを伝えた。

 ……? 葉琉からの反応がない。

 恐る恐るあげてみる。と、目を見開いて固まっている葉琉と目があった。……もしかして、びっくりしてる?

「……はる?」

「あ、ああ、ごめん。びっくりした……」

「え? なんで?」

 少し肩透かしを食らった気分だ。

 私はもう葉琉に好きバレしてるかと思っていた。何回か気づいているのでは? と思ったことがある。今度は私がビックリした。

「私、てっきり葉琉はもう私の気持ちに気付いてるんだと……」

「いや、えと、俺、つぼみは、加藤先生が好きなのかと思ってた……」

 ……は? え?

「え? なぜ?」

「だって、いっつもからかってるし、先生と話してると、楽しそうだし、彼女いないのかとかめっちゃ聞いてるし……。だからつぼみは加藤先生が好きなのかと思ったの!」

 ……確かに加藤先生をからかいはしている。でもそれはからかったら面白いからであって好きだからではない。断じて。

「いや、加藤先生は好きじゃない。いや好きだけど、そういう好きじゃない」

「あ、そうなんだ……」

「うん。私がすきなのは葉琉一択」

「……ありがとう」

 葉琉は照れているのか顔が赤くなっている。

 そういえば、大事なことを忘れていた。

「で、返事は?」

「え、へんじ?」

「私の告白に対する返事!」

「ああ、えっと……正直なこと言うと、今はまだビックリしてるし、つぼみに対する気持ちがまだわからないから、まだ返事はできない……かな」

「それってもう振ってるじゃん……」

「いや今までつぼみに抱いていた感情が恋愛感情なのか友情なのかまだわからないから待ってくれって言ってるの! 振ったわけじゃないから」

「じゃあ、いつ返事してくれる?」

「ホワイトデー……とか」

「いやおっそ」

「ごめん……。でもそれくらいの時間がないと真剣に答えられない」

「……わかったよ。ホワイトデーまで待つから、葉琉の中で答えを出して。それまでは、今まで通り友だちね?」

「ありがとう」

 葉琉が私の彼氏になろうがなるまいが、この気持ちを伝えられただけで、もう、十分だ。そのときは、そう思った。

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