二月十三日
「センセー。センセーは彼女いるんですかー?」
「いません。ほら、変なこと聞いてないで早く描いて! コンクールの締切明後日だぞ!」
「その甘いマスクのせいでモテちゃうから逆にいないのか」
「お前次それ言ったら美術部出禁な」
「センセーそんなあー」
「つぼみ、お前頑張らんとマジメに間に合わなくね? 先生で遊んでる場合じゃないと思うんだけど」
「うるさい!
「二人とも静かにしろー。先生会議あるから抜けるけど、ちゃんと進めとけよ?」
「はーい」
そう言って加藤先生は美術室から出ていった。
ここは、とある高校の美術部。なんと部員が五十人もいるため、部活の時の美術室はいつも空気が薄い。部員は様々で、軽く漫画っぽい絵を描く人もいればカンバスに油絵を描く人もいる。朝の満員電車を思わせる部屋と、みんな十人十色なおかげで火曜日放課後の美術室はカオスを形成している。顧問の化学教師、加藤先生(みんな大好き二十六歳)はカオスな美術部を応援している。さっきもあったように、関係するコンクールは全部参加させて熱い指導をするため、系統は違えど部員のほぼ全員は受賞歴があるというなかなかレアな状態になっている。
さっき「とある高校」と、この高校を紹介したが、この高校は東北のある地域にある超進学校だ。旧帝大に、毎年学年の半分くらいは受かっている。そんなすごいところに二年前、奇跡的に受かった私だったが、なんとか留年せずに頑張って、もうすぐ三年生だ。
受験生になる前にやっておいてしまいたいのは、絵画コンクールの作品を描くことと……葉琉に告白すること。
獲られたらどうしようの不安とフラれて友達でいられなくなったらどうしようの不安が対立する。うーん。どうしよう。
「なんでそんな変な顔してんの? 顔芸大会? 俺もやるわ」
そう言って白目を剥いて口をタコの形にする。まあタコの口が突き出したような形でないのは知っているのだけれど。
「ふっ。アホかっ」
思わず笑ってしまった。面白すぎて。
「お、笑ったー」
「私の眉間のしわ吹き飛ばそうとしてくれたの?」
「どうかなー? ……なんかあった?」
「なんでもないよ。もうすぐ三年生だなって思ってただけ」
「ふーん。ねえ俺もう帰って良い? つぼみ全然筆進んでないし。俺もう作品描き終わったし」
「あーまってまって。今やるからまって。一緒に帰ろ!」
「待ってるから早くしてー」
「すみませーン」
私は急いで筆を走らせた。
♢
「明日、バレンタインか」
「葉琉の今年のチョコ予想は?」
「ゼ、ロ」
「モテないこと気にすんなって!」
モテたら困るけど。実は私は葉琉に一回もバレンタインを渡していない。フラれたらどうしようと、不安で仕方がないから。
だがしかし。今年はちゃんと準備してきた。もちろん告白もするつもりだ。明日が来てほしいというふわふわした気持ちと、来ないでほしいというキュウっとした気持ちが混ざって、なんとも表現しがたい気持ちだ。
「じゃーまた明日」
「じゃーねー」
そう言って、私は葉琉の背中を見送った。
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