三月の紫苑

内月雨季

プロローグ

 駅の前に立って、三月の東北の、まだ肌寒い空気を吸い込む。雪がそろそろ溶け始める頃なんだけどなと思いながら、くしゃみをする。

 改札の向こうに懐かしい姿を見つけて、少しニヤニヤしてしまった。あれから十年も経っているのに、何も変わっていない。いや、顔が変わっていないだけで雰囲気はずいぶん変わったな。大人の余裕が感じられるというか老けたというか……。

 いや、老けたのは俺の方か。

 改札を抜けたその人の腕に抱えられている花を見る。わざわざ持ってきたのか。花も寒そうで、大変だな。

 声をかけようとする、と、

「せんせいっ……あははっ」

 あいつの声が聞こえた。思わずバッと振り返る。

 空気は、ただただ、しんと静まりかえっていた。

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