第三章②


 広くはない灰色の部屋。目の前の机の上をジッ、と見つめたまま、聖杜は黙って座っている。

 簡素な椅子は硬い。ずっと座ったまま視線を逸らさず、静かに呼気だけが彼の胸を上下動させる。何も言わず、何もしない。虚ろな瞳で、灰色の壁に反射した白色灯の光に、照らされ続ける。

 ずっとここにいる。苛立った男の乱暴な声を耳にしながら。叩きつけられる掌が机と空気を振動させて。よれた背広が視界の隅を往復するのを感知せずに。ただただ呆然と俯くだけ。

 身体がまるで凍ったように。軋んだ心を押さえつけて。聖杜はじっと、何もしない。

 彼にはそれしか、思いつかなかった。


「お手上げだな」

 溜息混じりに呟いた言葉。大橋は同僚の田島にタバコを渡して、再び視線をガラスの向こうへと移動させた。

 そこにいるのは一人の少年。学生証には一年とあった。誕生日は一月だったから、まだ15歳。子供だ。

 マジックミラーで、少年からはこちらが見えない。だがそんな必要は無いように思えた。彼がこちらに視線を移したことなどないのだ。取調室の中に入れられてから、ずっと机の一点を凝視している。

 年端も行かぬ、幼さを残した少年。それが、昨日の夕刻に起きた一家惨殺事件の容疑者とは、今の姿からは想像もつかない。末の娘以外、四人の家族が殺された。離れたところでもう一人、外国籍の男が発見された。犯人はこいつで間違いないだろう。

 問題は、その男がすでに死んでいたことだ。しかも自殺ではない。何の躊躇もなく一突きで喉を突き破られた姿は、どう考えても手練の行いである。

 府に落ちない。

 大橋はタバコに口をつけ、吸った。フィルターを通して煙が入り込み、肺が満たされる。フッ、と力を抜いてから、今度はゆっくりと紫煙を吐き出す。血中にニコチンが満ちるのを感じながらも、それでも考えはまとまらなかった。

「どう思う?」

 田島が聞いてきた。これで何回目だろう、この質問は。お互いにそればかりを口に出している気さえする。

「どう、て?」

「あんなガキが、大柄の男を本当に殺したのか、だ。それに一家の殺害容疑までかかってるなんて、信じられない」

「今更、なにを難癖つけてんだよ。鑑識の仕事が雑だったってか?」

「そんな風に疑っちまうよ。今のあいつを見てたらな」

 まぁ、そうだな。大橋は心の中で田島に同意する。警視庁捜査一課に配属されてから十年以上。地方警察の殺人課勤務も合わせて二十年を超える刑事キャリアの中でも、最も悲惨な現場だった。それは、目の前の小さな少年とは、どうやっても重ならない出来事に思えてならないのだ。

 だが――

 ハッ、と自嘲に似た笑みを漏らす。

「考えたってどうしようもない。男の喉に刺さっていたナイフから、中村 聖杜の指紋が検出された。それに鈴木家に上がりこんだのだって、現場を汚染したことになる。そのせいで血痕に足跡、至る所に指紋や髪の毛をばら撒いた。両方の犯人と疑われても仕方がない」

「しかし……生き残りの少女を助けたのは事実だ。それに、犯人なら自ら通報したりはしないだろう」

「何があろうと、あいつは訴追されるだろうな。まずは捜査妨害、次に殺人だ。少女を発見したのは偶然か、もしくは知っていたかだ。現場に入って証拠を汚染する為だったとも考えられる」

 言っていて、大橋本人は自分自身に矛盾を感じていた。田島と同じ気持ちなのだ。こんな少年が、あんな大それたことができるものなのか、と。

「動機がない」

 田島は違和感を隠そうとはしない。そういう真っ直ぐなところは、彼にとって長所であり、短所だ。

「弁護士は?」

 大橋は話を逸らした。

「……容疑者の両親が旅行中だそうだ。保護者と連絡がとれず、弁護士を勝手に決めて良いかどうかで揉めてるよ」

「連絡がつかないのか?」

「どうなってんだかな。まぁ、家族は来てるよ。義理の妹だって娘が、ロビーで待ってる」

「そうか……」

 大橋はちらりと腕時計に目を落とした。もうすぐ夜が明ける時間だ。

 聖杜の義妹、由梨花は確か、午後11時にこちらに来たはず。それから四半日近く待っているというのか。

「兄妹そろって、意地は強いらしいな」

 大橋は再び、視線を上向けた。そこには未だ俯いたまま、水にすら手をつけない少年の姿。

 もう一度、行くか。大橋は田島と目を合わせ、取調べ再開のためにドアノブに手をかける。

 カチャ。

「!」

 開いたのは別のドアだった。

 そこから顔を出したのは、捜査一課長の平岡であった。彼は見張りの警官に返礼すると、大橋の前に来てこう言い放った。

「釈放だ。中村 聖杜を容疑者から外せ」

「えっ?」

 それは意外な言葉だった。事件の幕引きのために聖杜への容疑を固めに動くだろうと思っていたのだ。それが官僚的なやり方のはずである。

「聖杜の容疑は晴れた。一家惨殺の犯人はアルゼンチン国籍のホセ・アントニオ・マルチネス。聖杜は鈴木 重成と下校していた。アリバイはある。ホセは死亡、書類送検に回す」

「奴の死因はどうするつもりだ?」

「正当防衛だ。現場の汚染も、鈴木 杏子の救出を目的としたものだ」

「疑問は片付いていない。正当防衛にしては現場と離れすぎている。それに杏子を助けたというが、奴はなぜそれが分かった」

「それについては答えられない。……あー、今から独り言を言う。他言はするな、とくにマスコミには流すなよ」

 念を押すような言葉。大橋は平岡のヒゲ面を見つめ、静かに頷いた。

「大使館から使者が来た。なんらかの圧力があったらしく、上は直後に今回の釈放を決めたんだ。もう俺の力ではどうにもできん」

「大使館? アルゼンチンか?」

「……いや、アメリカだよ」

「なに?」

 愕然とした。大橋だけではない、その場にいた全員が、だ。

(アメリカだと? あいつはあの国と、どんな関係があるというんだ? 一体、どんな秘密が隠されている?)

 混乱に満ちたまま、次々と浮かび上がる疑問に言葉が閊える。そんな様子を察したのだろう、平岡が先に口を開いた。

「詳しいことは俺にも分からん。聖杜の経歴を調べたが、何も出てこなかった。ただアメリカ政府からの圧力があった、としか言えんのだ」

 平岡も首を横に振るだけ。それで納得しろ、ということだ。

 大橋は口を噤んだ。田島も黙っている。その様子を確認した後、少しだけ沈黙が降りて、彼は観念したように呟いた。

「……釈放しろ」


 ロビーの中に金属音が響き渡る。ドアが開いたのだ。次に甲高い靴音が聞こえてきた時には、由梨花はパッ、と顔を上げて、音の先へと視線を向けていた。

 もう何度目になるかわからない確認作業。不安だらけのちっぽけな身体は、その重圧に押し潰されそうだ。さっきまでカタカタと震えていた肩を竦ませながら、広いロビーに一人だけ居る寂しさに耐えていた彼女は、立ち上がって様子を窺う。

 そして次の瞬間には、喜びに顔を綻ばせ、求めていた少年へと駆け寄っていた。

「お兄ちゃん!」

 フラフラと、おぼつかない足取りで近づいてきた小柄な少年。彼が憔悴しきった顔を上げた時には、由梨花の身体は直前で止まっていた。

「ゆり……」

 聖杜の唇が動いた。少しクシャ、となって、すぐにそれを隠すように表情を戻す。その後で倒れこむようにして、聖杜の腕は由梨花を包み込んでいた。

「お兄ちゃん……?」

 聖杜は、震えていた。

「ごめんな。ごめんな、由梨花……」

「お兄ちゃん……」

 ギュッ、と。首に回った聖杜の腕に、力が篭る。

「ごめんな、ごめんな、由梨花……」

 彼はただ、そう呟いて、震えていた。押し付けられた胸から聞こえる鼓動は、トントントン、と速いペースで鳴っている。

 由梨花は聖杜の背中から手を廻して、彼の頭に置いた。落ち着かせるように撫でて、抱くように力を込めて。

 彼の様子に、涙が零れてきてしまう。それでも構わない。由梨花はゆっくりと聖杜を撫でる。

「いいの。大丈夫だよ、お兄ちゃん。なにも怒ってない、なにも心配しなくて良い。私はここに居るんだから――」

 二人の慟哭は静かに響く。まだまだ続く嗚咽を、ゆっくりと、確実に落ち着けよう。

 由梨花は聖杜の震える背中に、静かに愛情を込めていった。



 公式発表では、犯人であるホセ・アントニオ・マルチネスは自殺として報告された。聖杜は、「偶然、事件現場に居合わせてしまった、被害者の友人」としか紹介されず、取調べについては何も触れられはしなかった。それが圧力とやらの影響と関係があるのかどうかは分からないが、世間一般はそんなことを何も知らずに、平日に起きた外国人による猟奇的な殺人事件をセンセーショナルに騒ぎ立てるだけだ。

 鈴木家のある住宅街は混乱し、青木島高校は生徒の殺害に深い衝撃が走った。重成の死は校内に暗い影を落とし、彼の両親の職場でも冥福を祈る黙祷が捧げられた。祖母の所属して居た老人会も慟哭に包まれ、愛された一家は大きな悲しみの一報を関係者に知らせることになる。

 マス・メディアは外国人犯罪の増加を嘆き、悲劇の舞台となった家族に同情を送る。その中で最も注目を集めたのは、たった一人の生き残り、まだ中学生の女の子のことだ。彼女の動向に逐一反応し、その悲哀に満ちた姿を格好の材料とする彼らには、まるで品格と言うものが欠けていたであろう。

 多数の報道陣に囲まれる中で、現場となった家は清掃され、検死解剖の済んだ遺体が綺麗に布団の上に寝かされる。四人の一家の通夜がしめやかに行われ、彼らの親族は表の注目に辟易としていたのだ。


 居間に静かに横たわる四つの遺体。その前で膝を抱えながら、杏子は、ジッと彼らを見つめている。

 杏子の後ろには、親類縁者がテーブルを囲み、一様に顔を曇らせているのだ。それは疲労ではなく苛立ちである。ピリピリした空気に耐えられなくなって、少女は家族の傍へとやってきていた。

 弔問客も一段落した時分である。タバコの煙が家中を満たしているような錯覚さえ覚える、いやな空気。普段は人当たりのよかったオジサンもオバサンも、皆が不機嫌そうな態度で、今まででは考えられなかったような言葉を吐き出していた。

『こんな大変な時期に死んじゃうなんて、信じられないわね』

『俺は出張を蹴ってまで来たんだ。まとまりそうだった商談を広瀬の奴に奪われた。これで昇進できなかったら、母さんたちのせいだ』

『せめて一人ずつ死んでくれれば良いのに、四人も一気になんて。苦労も重なるわ』

『それを言うなら全員死んでくれればよかった、よ。どうするのよあの子。私はこれ以上、面倒見切れませんからね』

『なに言ってんのよ、姉さんが預からなきゃどうすんのよ。長男の家が育てるべきでしょう』

『そうそ。どうせ義兄さんは三人もいるんだ、一人増えても変わらないだろ』

『冗談じゃない! ウチは切迫してヒイヒイ言ってんだ。おい、靖宏。お前は事業を起こしたらしいじゃないか、余裕があるだろ』

『おい! なんで俺に振るんだよ! ようやく独立したんだ、そんな時期にガキなんて構ってられないよ!』

『高志、お前は株で儲けたって喜んでたじゃないか。杏子を預かっても良いだろう』

『ふざけんな! こないだようやく縁談がまとまったんだぞ、子持ちになったら御破算だぜ』

『もう、ケンカしないでよ。本人が聞いてるかもしれないじゃない』

『へぇ。そう言うんならお前が育てるか?』

『ちょっ、それとこれとは話が別でしょ! 最初から義兄さんが預かれば済む話じゃない! どうせ遺産配分は一番多いんだからさ!』

『おい、それはどういう意味だよ! お前らだって婆さんの貯金目当てでここに来たんだろ!』

『なんですって!』

『ちょっと、どういう意味だよ!』

『自分と一緒にすんなよ!』

『全く、冗談じゃないわよ。なんでこんなことで言い争わなきゃいけないわけ!』

 杏子は、ギュッ、と足を抱えた。一体、この言葉が出るのは何度目だろう。目を瞑って、膝に頭を押し付けて、必死に震えを抑えようとする。それでも聴こえてきてしまう言葉に、杏子はどうしようもない虚無感を覚える。

『なんであの子だけが生き残ったのよ』

 全員の溜息が聞こえて、杏子はもう我慢ができなかった。溢れ出す涙を止められない。スカートの生地にじわりと染み込み、紺の色がわずかに滲む。

「うぅ……!」

 嗚咽が口をついて出た。それに気付いてさらに強く膝を抱き込む。絶望にも似た悲しみが全身に広がるのを止められない。

(私は邪魔なんだ。私なんて邪魔なんだ。私がいるから、生き残っちゃったから、みんなケンカしてるんだ。私が嫌いだから、みんな怒鳴りあってるんだ)

 涙はもう、収まらなかった。ガタガタと肩を震わせ、背中を丸めて膝に顔を押し付けて、杏子は必死に声を抑えながら、泣いていた。

(私がいるからダメなんだ。私はいちゃいけない人間なんだ。私は死ななきゃいけない人間だったんだ!)

 ぎゅっ、と自分を抱え込んで。涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら。杏子は必死になって自分自身を呪っていた。

(なんで? なんで私、死ななかったの? ねぇ、お婆ちゃん、お母さん、お父さん、お兄ちゃん。なんで私は死なないで、ここで生きてしまっているの? 辛いよ、恐いよ、悲しいよ。ヤダよ、もう生きたくないよ……助けてよぉ)

 助けて――

 そう、

 助けて

(助けてよ、誰か――。聖杜くん……)

 あの時のように――

 聖杜の柔らかい笑みを求めながら、杏子はまた、泣いていた。


 夜の10時を回ったころ。聖杜はようやく、現場となった鈴木家へと足を向けていた。

 こんな遅い時間に忍びない、という気持ちはもちろん、ある。しかし、どうしても早い時間に行くことはできなかった。

 決心がつかなかったのだ。思い出してしまうのである、あの惨状を。喉に刃物を突き立てられた重成の顔と、家中に巻き散らかされた黒ずんだ血液が。

 四つの死体が、知っている人がゴロリと転がっている様が、どうしても浮かんできてしまって、聖杜の心が拒否し続けたのだ。

 それでも、ようやく腰を上げることができたのは、やはり親友に対する義理であろう。最期を看取った者としての責任感であり、また彼らの死を信じられない気持ちに決着をつけるためでもある。

 隣に由梨花がついて来てくれているのは、余計にありがたかった。一人では足が竦んでしまいそうなのだ。その弱い心を支えてくれる彼女がいなければ、今頃はすでに引き返していただろう。

 二人は言葉を交わさぬまま、正門前に張り込むようにしていたテレビ局のスタッフたちを押し退けて、玄関まで歩を進めた。

 その時、一度だけ由梨花の顔を振り返る。少女は静かに頷いてくれた。聖杜は震える指先を制しながら、チャイムを押し込もうとする。

「……?」

 ふと、気がついた。

 表のリポーターたちが一瞬だけ静まり返った時に、その声は聞こえたのだ。怒鳴り声。言い争いをする複数人の声である。

「なんだろう?」

 気になった。由梨花が不思議そうに首を傾げるが、その手を引っ張って左へと歩き、聖杜は庭へとやってきた。

 そこには茶の間があった。

 喪服を着た十数人が、真っ赤に興奮して怒鳴りあっている。多分、親戚なのだろう。その人たちが我を忘れて言い争っている姿に違和感を覚えた。が、その会話内容を理解した時に、違和感は大いなる疑問に変わったのだ。

「おい! 俺たちに押し付けようとするな!」

「なんだよ! いいじゃねぇか、子供一人を育てるだけだ!」

「そうよ! それに義兄さん、いつも杏子のこと可愛がってたじゃない!」

「それを言うならお前らだってそうだろ! 大体、自分で預かるとなると話は別じゃねぇか!」

 杏子のこと――!?

 聖杜は頭を殴られたような衝撃を覚えた。足元がグラついて、眉を顰め、踏ん張るようにしてようやくバランスを維持する。

 それでも頭が痛くなり、思わず掌で押さえてしまう。信じられない気分だった。少女一人を預かるのに、ここまでいがみ合うなんて事が。

「非道い……!」

 隣で由梨花が唇を噛んだ。彼女の表情には、明らかな怒りが浮かんでいる。

 半ば呆然として、聖杜は視線を巡らせた。すると、茶の間の隣で、膝を抱えて小さくなった杏子を見つけた。

 彼女は膝に頭を押し付けていた。全身が震えているのを見て、聖杜は頭に血が上るのを抑えられなくなった。

「すいません!」

 足を一歩、踏み出して。聖杜は怒鳴るように声を出す。

 その唐突な行為に、その場の全員が一斉に聖杜を見た。驚きの表情で、一瞬の静寂が流れたのを了解し、次の言葉を吐き出す。

「杏子を、俺に預からせてください」

 突然のことに全員が呆気に取られた。

「お兄ちゃん!?」

 と由梨花が袖を引っ張るが、それを振り払う。えっ? という疑問に満ちた、全ての視線を受けながら、聖杜はもう一度、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「杏子を、俺の家で、育てさせてください」

「き、キミは?」

 最も縁側に近い、初老の男性がそう聞いてきた。

「あ、俺は……」

「私たちは、重成くんと中学生時代にクラスメートだった者です」

 由梨花がスッ、と前に出る。

「私は中村 由梨花。こちらが義兄の聖杜です」

 由梨花は、すでに動揺を抑えていた。凛、とした声で、視線を真っ直ぐに伸ばし、大人たちの目を受け止めている。

 その姿は美しい強さに満ちていた。

「中村、聖杜? じゃあキミが第一発見者の?」 

「はい、重成の親友です」

「いや、しかしだね、きみ……。えっと、見ず知らずのキミが預かるといっても」

 しどろもどろで、最年長と思われる男性が何かを言おうとする。が、その横をすり抜ける様にして、影が聖杜に近づいてきた。

「聖杜くん!」

 杏子の、涙に掠れた声が響く。次の瞬間には、少女の体は聖杜の胸にぶつかり、抱きついていた。

 聖杜のブレザーに涙の跡が染み込んだ。

 そっ、と抱き締めてやる。震える背中を撫でて、その後で顔を上げ、

「お願いします。この子の面倒は、ウチで見させてください」

 頭を下げた。ポカンとした様子の大人たちに、最大の誠意を込めて。

「私からも、お願いします。両親には話をつけますから」

 由梨花もそろって頭を下げてくれる。その場に満ちた戸惑いがさらに広がるのを感じながら、二人は頭を下げ続けた。

 困惑と好奇の視線に曝されながら、これが重成にできる、友人としての最大限の行為だろう、と確信していた。

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