第144話 宮中パーティー⑩
闇の執行官ホプライト。
彼女は主であるヘイズより一つの闇の宝具を授かっている。
それは魔物の魂を封じ込めた宝石箱だ。
その宝石箱からは次々と魔物が現れる。
その数は十、いや二十を越える。
「さあ、魔物共、あのババアを殺せ! 魔法使いなんてのは数で押せば大したことないんだよ!」
サソリの魔物デスイーターはマーガレットに一斉に襲い掛かる。
「なめてもらっては困るね。私はオリビア学園魔法学科教授、マーガレット・シャドウウィンド。
この程度の魔物、どうということはないよ。それに、私は一人で戦ってるわけでもないしねぇ」
次の瞬間。
ひゅん、と空を切る音とともに鋼鉄の矢が魔物めがけて降り注ぐ。それは正確に魔物の頭部を貫いている。
実体のない魔物は死亡すると跡形もなく消え去っていく。
アランは見張り搭にいながらも支援攻撃を欠かさない。
だが、ホプライトは一瞬で倒された魔物に一瞥もせずマーガレットを睨む。
「マーガレット・シャドウウィンド? これはなんたる偶然でしょう。やはり今日は運命の日ですね。
憎たらしい我が一族の裏切り者、後継者として期待されながら、他国の王女の甘言に乗り祖国を裏切った罪深いマーガレット叔母上に合えるとは思いませんでした」
「なんだい、あんた、見覚えがないねぇ。私が最後に見た姪っ子達はもっと可愛かった記憶があるんだがねぇ……」
「それはそうでしょう。何年たったの思っているのです、まったく、これだからボケ老人は。
さてと、あのレンジャーの支援攻撃は厄介だけど矢の数には限りがあるでしょうし、叔母上には闇の宝具の力をじっくり見てもらおうかしら」
魔物は再び数を増やしていく。デスイーターの他にも砂漠の怪鳥デザートウィングも出てくる。
「ち、やっかいだね、これだから闇の魔法は嫌いだよ。まったく趣味が悪い」
マーガレットの頭上には野生の魔物では有り得ないほどの数のデザートウィングが規則正しく飛んでいる。
アランの援護がない。
それもそのはずで、矢には限りがあるし彼の任務はあくまで索敵なのだ。おそらくは他にも敵が現れたという事だろう。
「ふふふ、叔母上。私はね、エフタル王の命で父を殺した。次は兄を殺した。王の敵対派閥だったからさ。しょうがないだろう?
だがそのエフタル王も死んだ。どんなに力を持ってもあっけなく死ぬのさ。……ならばこそすがるしかないのよ。呪いのドラゴンロードの権能は死者を復活させる。どう? すばらしいでしょ!
……ふう、ところで叔母上はここで何をしてるのですか? 今にも死にそうな老いぼれになって、何を成し得たのですか?」
「……まったく、可愛かった姪っ子もすっかり闇に落ちたのかのう。やはりシャドウウインドは呪いの家系であったか……まったく残念でならない。
つくづく思うよ。あの時オリビアの甘言にだまされて、体一つでカルルクに来たのは本当に幸運だった。持つべき者は親友だね。
おかげで堕ちずにすんだよ、お前さんのようにな。今は亡きエフタル王国の亡霊、闇の執行官とやら?」
「減らず口を! この数の魔物を見てまだほざくか! だがどうだ、圧倒的だろう?
これでもヘイズ様の力の一端。ドラゴンロードの生まれ変わりを手に入れた暁にはもっとすごいことが起こるに違いない!」
ホプライトは宝石箱を閉じると大事そうに地面に置く。マーガレットは宝石箱から闇の魔力が消失したのを確認すると。
「姪っ子よ。それで魔物は打ち止めのようだね。それにしてもお前さん。魔法使い同士の戦いをなんだと思っている。
格上の魔法使い相手に時間をかけすぎだよ。これだから闇の執行官はクズの集まりだと言うんだよ!
――極大神聖魔法、最終戦争、最終章、第二幕『鎮魂歌』!」
次の瞬間、マーガレットを中心に光が放たれる。
その光を浴びた百を超える魔物は全て一瞬で消滅した。
一瞬の光景にホプライトは身動きが取れない。
「……な、なにが。そんなヘイズ様の闇の魔法が……おのれー、ババア、何をした!」
「何って、……不勉強だよ。極大魔法の一つさ。闇の魔法で生み出した不幸な魂を全て浄化する『鎮魂歌』だよ。
皮肉な話さ。闇の魔法の大家、シャドウウィンド家の人間には相応しくない魔法だろう?」
極大魔法は数あれど、その極限である最終章を使える者をホプライトは知らなかった。
「ちっ、その才能があって。なぜシャドウウィンド家から逃げたのだ! だから私は、お前が許せない!」
「別に許してもらう必要はないさ。まあ悪いことはしないよ。大人しくお縄につきな」
闇の宝具の使用で魔力を使い果たしたホプライトはその場に崩れ落ちた。
「しかし、これもとんでもない魔法道具だよ。もう少し時間がかかっていたら、この子は魔力枯渇を通り越して死の魔物の仲間入りだったさ。
命は助けてやった、あとは牢獄で一生反省する事さね、親戚のよしみでたまには顔を出してやるよ」
マーガレットは闇の宝具を回収すると、ホプライトを拘束し、騎士団に後を任せた。
「ふう、極大魔法はさすがに疲れるよ。私も少し休憩しないとね。……オリビア、後は任せたよ」
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