第135話 宮中パーティー①
宮殿の近くにある、とある宿屋の一室にて。
「はあー、いいっすねー。ルーシーちゃん達、今頃は舞踏会っすねー。私もドレスを着て社交界の蝶になりたいっすー」
「なんじゃ、イレーナ。まるでアラン先生みたいな口調で。全く、我々オリビア学園魔法学科の教員にはふてくされてる暇などないんだよ」
「ええ? いつも、ふてくされてるマーガレット先生がそれを言いますかー? まあ、これも仕事のうちだと理解してますけど……」
そう、華やかな宮中パーティーの裏では、それをサポートする者たちがいる。
栄えあるオリビア学園の教師たちとてそれは例外ではない。
特に今回は危険人物であるヘイズがまだ捕まっていないのだ。
そして可能性としては、皆が浮かれている今日この時が奴が行動を起こすタイミングでもあるかもしれないのだ。
未だにドラゴンロード・ルシウスの居場所はわからない。
あの無名仙人ですら分からなかった。
彼曰く一度滅ぼされたドラゴンロードが再び力を取り戻すのは数百年から千年はかかるということである。
人に化けているとしても、もはやそれはただの人と同じであり、ほぼ無害であろうとも言っていた。
だがドラゴンロードの権能の一つを授かったヘイズと接触した場合は何が起こるか分からない。
ホーカムから得た情報では少女とあったが、それが真実だという保障もない。
だがヘイズがホーカムにそう言っていたのは真実だ。
無名仙人の前では嘘は直ぐに見破られるのだから。
「しかし、マーガレット先生。そのヘイズというのは本当に今日行動を起こすんですか?」
「さあな、だが起こすとしたら今夜だろう、市街では仮装パーティーが開かれておるしな。夜遅くにどんな格好をしても怪しむ者はおらん。
目立ちたくないやつが堂々と行動するのには絶好の日でもある。
まあ、それでも行動せんかもしれんな。運任せではあるが、無名仙人は今はおらん。それは奴も知っているはずだ」
「でも市街はパパの他にも、冒険者ギルドからベテランのレンジャーの皆さま、それに騎士団の方々が巡回していますし、そんな中、堂々と犯行に及ぶでしょうか?」
「まあ、しなければそれに越したことはない。……だが、イレーナよ。儂はそれでも行動を起こすのは今日ではないかと思っておる。
癪な話だが警備など奴には関係ないのだ、善良な一般人に化けておるのだからな。
それにレンジャーとて同じ、今日は市街の連中の行動は普段と違うんだ、隙は生まれるよ。
それに何よりも今は無名仙人が居ない。まあそれはこちらが仕掛けた罠だが、やつとして最大のチャンスであるのは違いない。
奴は儂らだけなら何とでもなると思っておるようだしな、なめられたものじゃ。
だがそれでよい。時間が経てばこちらの警戒網にも綻びが生じる、できるなら年内に処理したいところだのう」
イレーナの印象だと無名仙人はさりげなくお尻を触ったスケベなお爺さんである。
だが、戦士として一流、アランほどではないがレンジャーとしても腕に覚えのあるイレーナが何の防衛もできずにセクハラをされたのだ。
その実力は計り知れないと思うし、マーガレットが悪態を吐きながらも信頼しているのはうなずける。
その無名仙人ですら分からないのだ。考えてもしょうがないとイレーナはため息を吐く。
「……はあ、たしかにその通りですね。それにしても呪いのドラゴンロードの生まれ変わりの少女っていったい誰なのかしら。
そんな残酷な運命を背負った少女、可哀そう……きっと友達も出来ずに孤独に生きてきたに違いないわ……」
「そうかものう、あの漆黒の罪悪、憎悪の君の呪いを幼い体でたった一人で背負わされるのだ、ぞっとするよ」
◇◇◇
宮殿に馬車が到着する。
首都ベラサグンの中央にある宮殿の周囲は除雪がされており馬車の往来も盛んであった。
だが気温は低い、馬車の扉を開くと外の空気は凍り付くように冷たかった。
「へっくしょん! むー。誰か私の噂をしているな?」
「ルーシーさんったら、そんな訳ないでしょ。それよりも風邪でも引いたら大変、さっさと宮殿の中に入りましょう?」
ルーシー達は招待券を門番に見せるとパーティー会場とは別のラウンジに通される。
そこにはダンスパーティーが開催されるまでの間、ゲストにくつろいでもらうために軽い食事や飲み物が用意されていた。
「ルーシーさん。パーティーまで少し時間がありますわね。何か軽く食べましょうか?」
「ふふふ、ソフィアさん。パーティーのご馳走を前にして食事など持ってのほか。お昼を抜いた意味がない、そもそもなぜパーティーを前に食事を取る必要があるのだ」
「うふふ、それもそうですわね、でも、途中でお腹がなってしまったら最悪ですわよ?」
そう、皇帝陛下が挨拶しているのにお腹を鳴らしたら最低だ。
セシリアも同意見のようで、ソフィアに続ける。
「ルーシーさん。パートナーの前でお腹グーグーだと、女子としては恥。軽く食べることをお勧めする」
だが、ルーシーとしては違和感があった。
なぜパーティーでご馳走が出るのに事前に食べなければならないのか、まったく理解不能だ。
「うーむ。そうなの? でもパートナーはニコラス殿下だし、別に恥ずかしくないから大丈夫なのだ、わっはっは」
「もう、その辺はもう少し恥じらいを持ってほしいですわ。まあ、ニコラス殿下なら良いのかも?」
「たしかに、もはや熟年夫婦の風格。さすがはルーシーさん。恐ろしい子」
そうは言ったルーシーだが、ラウンジにあったチョコレートのケーキを見つけると、すぐに手の平を返すのだった。
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